君の声を聴きたくて

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「スーちゃん、ねえ、何考えてるのよ。今日はありがとう。父さんの代わりもご苦労様」 「お義兄さんは?」 「トイレだったかな? もう来ると思うけど。はい。これ、伶来ちゃんに」 「ブーケ? さっき投げたんじゃなかった?」 「これは式前の写真撮影で使ったもので、昨日私が花を選んだのよ」 「いいの?」 「結婚、考えているんでしょ?」 「んー。考えてはいるけれど、もう少し先になるかな」 「私と違って、スーちゃんは長男だから、大変ね。たかだか200年あるかないかの山形の家、気にしなくてもいいと思うけど」 「祖父(じい)ちゃんと祖母(ばあ)ちゃんがいるからなあ、二人を説得するなんて僕には無理」 「わかるー。祖父ちゃんには誰も勝てない。父さんが生きてたとして……、うーん、多分、父さんにも難しいわ」  長男だった父、その長男である僕の名字は祖父母の存命中は動かしがたい。家を守るという祖父母の思いも動かしがたい……。  別に赤江先生や伶来さんにお願いされたわけではないし、伶来さんのお姉さんの二男に連理を名乗らせるから大丈夫、とまで言われているのだから気にすることはないのだが……。 「スーちゃん、しっかりしなさいよ。伶来ちゃんをあんまり待たせちゃダメよ」 「わかってる」  何気なくポケットつっこんだ手がスマートフォンに触れた。取り出し電話をかける。  ―はい。山形さん、どうしましたか? 一花さんの結婚式どうでした? 電話していて大丈夫なんですか?  ―うん。……ちょっとだけ、伶来さんの声が聴きたくなって。                        〈了〉
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