13人が本棚に入れています
本棚に追加
/128ページ
「スーちゃん、ねえ、何考えてるのよ。今日はありがとう。父さんの代わりもご苦労様」
「お義兄さんは?」
「トイレだったかな? もう来ると思うけど。はい。これ、伶来ちゃんに」
「ブーケ? さっき投げたんじゃなかった?」
「これは式前の写真撮影で使ったもので、昨日私が花を選んだのよ」
「いいの?」
「結婚、考えているんでしょ?」
「んー。考えてはいるけれど、もう少し先になるかな」
「私と違って、スーちゃんは長男だから、大変ね。たかだか200年あるかないかの山形の家、気にしなくてもいいと思うけど」
「祖父ちゃんと祖母ちゃんがいるからなあ、二人を説得するなんて僕には無理」
「わかるー。祖父ちゃんには誰も勝てない。父さんが生きてたとして……、うーん、多分、父さんにも難しいわ」
長男だった父、その長男である僕の名字は祖父母の存命中は動かしがたい。家を守るという祖父母の思いも動かしがたい……。
別に赤江先生や伶来さんにお願いされたわけではないし、伶来さんのお姉さんの二男に連理を名乗らせるから大丈夫、とまで言われているのだから気にすることはないのだが……。
「スーちゃん、しっかりしなさいよ。伶来ちゃんをあんまり待たせちゃダメよ」
「わかってる」
何気なくポケットつっこんだ手がスマートフォンに触れた。取り出し電話をかける。
―はい。山形さん、どうしましたか? 一花さんの結婚式どうでした? 電話していて大丈夫なんですか?
―うん。……ちょっとだけ、伶来さんの声が聴きたくなって。
〈了〉
最初のコメントを投稿しよう!