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君の声を聴きたくて
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姉の一花の披露宴が終わり、母は気を張って疲れただろうけれど、それ以上にホッとしたのではないか。僕たち姉弟と同じように、今日は父が近くにいて見守っているのを母も感じていたに違いない。いい一日だったと思う。
実のところ、読者が僕だけしかいない緑川先生の『君の声がききたくて』が出版されることはないのではないかと僕は思っている。面白いかと問われると、僕にはなんだか身近過ぎて、楽しめず、よくわからない。先生がジャンルを「恋愛」だと言ったけれども、それも少し違うような気もする。
秋田三花と森山大河が結ばれてなのか、結婚してなのかはわからないが、どこかキリのいいところを彼らの恋物語の終点とするのだろう。小説はそこで終わるのかもしれないが、この二人の一生を考えれば、一般的にはまだ50年もの月日があるのだ。
運良く結婚にこぎつけたとして、それまでのごたごたや行き違いが結婚すれば全て解消するわけではなく、きっと、それどころではないぐらいの多くの出来事がこの先に待ち構えているに違いない。
そう考えると、長く生きてきた両親や緑川先生夫妻をはじめ、巷のほとんどの人が大なり小なり特別なエピソードを持っていて、それぞれの物語があるのだと気づく。他人事だからなのか、無責任さも手伝い、普通に見えるその人たちをも興味深く、面白い話が聞けるのではないかとさえ思えてくる。
僕は編集者でもあり、ただの読者でもある。理想ではあるけれど、この世の中のありとあらゆる本や雑誌が多くの読者にさまざまな形で届けられたなら、そして、それを求める形で読み、愉しむことができたなら、とても嬉しいことだと思う。
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