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「今日、図書館で読み聞かせをしてきたのよ」
「ボランティアの?」
「うん。子どもたちが夢中で聞いてくれるのは嬉しいし、自分でもうまく読めたと思える日は気分もいい」
秋田充は小さな出版社に勤めている。5年目にはなるが編集者としてはまだまだだで、でも人としては悪くないらしく作家たちにかわいがられていた。真面目なのと懸命なのが伝わるからだろうか。
充は姉の三花と暮らしていて、日曜日だけは一緒に夕食をとるようにしている。
三花があの時の社内恋愛で結婚していれば、今頃子どもが二人ぐらいいたかもしれない。しかし、運悪くというか、恋愛だから仕方ないとも言えなくもないが、入社したての若さだけの娘に恋人をとられてしまった。その時、母親は気落ちした彼女を慰めることなくふがいないと責めたてた。恋人がいながら別の娘と遊ぶようなしょうもない男だったとわかったのだから、運がよかったとさえ充は思ったのだけれど、そう母親に言わず姉の味方になることもなかった。
充は七つ上の姉をずーっと大人で、しっかりしてて強い女だと思っていた。けれど、そのことで沈んでいる姿、なかなか前を向けずにいる様子や仕事を辞めてしまったことなどから、自分の中の姉は弟を相手にした時のものに過ぎず、三花をそのまま表したものではなかったということに気づいた。
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