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三花の失恋から7年が過ぎ去っていた。充の就職先である出版社と三花の職場がそう遠くなかったことと、大切な息子の生活を不安に思う母親の強い勧めで就職を機に姉弟で暮らし始めた。その頃から充は姉を名前で呼ぶようになった。親の前では変わらず「ねえちゃん」ではあったけれども。
「三花、仕事は相変わらず暇なの? 出張とかないの?」
「そうねえ、例のやつで辞めちゃって、しばらくして勤めたそこがまあ、何もかも最悪だったから、今の会社は給料は安いし、かなりのお姉様ばっかだけど、人間関係は悪くない。それなりに達成感もある。土日完全休だし、平日も残業少なめだからボランティアなど仕事以外の時間が持てる。えっ、何? 好きな人でもできた? 私が邪魔ってこと?」
「そこまでは言わないけど、彼女を連れ込めないなあ、って」
「部屋に女の子を入れたいというなら、知らせてくれればどこかに泊まるけど? でも、彼女っていたっけ? 一緒に暮らして丸4年、この部屋で女の子を一人も見たことない」
「ひどいなぁ。遠慮だから。三花に悪いと思ってだから。それを言うなら三花こそ、男の影一つないじゃないか」
くだらない口喧嘩で、お互い傷つくだけなのにどちらともなく仕掛けて双方が転んで終わる。いつも結果はほぼ同じ。その晩の姉の声を充は幾分高めで、いつもとはほんの少し違うように思ったが、そこにツッコむほどのこともないと黙る。
弟とのいつも通りをやりきると、三花は今日の図書館での出来事を思い出していた。
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