翠に緑を添えたなら

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『どんな土地でもよく育ちますよ』  城下の広場で露店を開いていた行商人から買った、花の苗。やけに人懐っこい笑みが逆に怪しげだったが、聖剣士の自分の給料からしたら、全く痛い出費ではない。失敗したならむしろ安い勉強代だ。  主君は、常に花に囲まれているだろう。彼女は大陸最大国の女王だ。欲しいと望んで手に入らないものは無い。  ――いや、手に入らないものはある。  国家、部族、種族、思想を超えた融和。彼女はそれを求めて、刃無き戦いを戦い、そして疲弊している。傍からは気づかれないよう気丈に振る舞っているが、精神がすり減れば身体にも影響が出る。 『アルフは心配性ね。大丈夫よ、こんな事で(つまづ)いている場合じゃあないのだから』  東方の戦闘民族との対話が成らなかった時、翠の瞳が憂慮に曇っているのを見かねて声をかければ、彼女は笑顔で返した。その笑みが、無理をして作っている、というのがありありとわかって、余計に痛々しかった。  せめて、丹精込めて花を咲かせた緑を渡せば、彼女の心も多少の平穏を取り戻すだろうか。身辺だけでなく、心も守れるだろうか。考えながら白い石畳で舗装された一等地の道をゆき、家の扉を開ける。
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