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じっと耐えるしかなかった。
逃げ場などこにもなかった。
一寸先は常に闇だった。
長い長いトンネル。
出口のないトンネル。
いや、それは違う。トンネルには多少なりとも明かりがある。だったらー。
洞窟か。それも違う。
とにかく微かな一筋の光さえ、射し込む余地のない世界。
全身の痣が全てを物語っている。
若者の名は端月港。
港町で生まれたから‘‘港‘‘と名付けられたその名前に、ようやく自分らしさを見つけられた気がする。
他者から見れば愚かに思えることだとしても、港にとってはそれが光なのだ。
狭い部屋で調書を作成するパソコンのキーを打つ音が、やけに場違いに感じさせる。
「端月港、本当に君の仕業なのか。君が郷田を殺ったのか」
岩井繁男はどうしても目の前の若者が、人を殺したとは思えなかった。今どき刑事の勘などと言おうものなら呆れられるだろうが、長年の経緯から端月港はシロだと確信している。だが――。
物的証拠、状況証拠、犯行の動機、どれを取ってもクロになるのだった。
巧妙かつ綿密に練られた策が成功しているとしか、岩井には思えないのだ。
静かな間。
端月港は問われたことにしか応えない。岩井は質問を変える。
「葉月涼夜は今どこにいるんだ?」
この名前を出せば少しは表情を変えるかもしれない。そう思ったが端月港の表情は一貫して能面のようだったった。
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