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草むらの瓶
勇渚は、鬼役のミクちゃんのうしろに続いて、公園の中央まで移動した。
「もう一回やろう!」ミクちゃんは足踏みをして、大きな声で言う。
勇渚は、鬼役になりたくなかった。探すより、探されたほうがドキドキできるからだ。最初に見つかった子が鬼役になると思っていた勇渚は、ミクちゃんの「今度は、じゃんけんにしよっか」の一言で、安心が不安へとひっくり返ってしまう。
一回目はミクちゃんが鬼役を立候補したのだ。だからじゃんけんは、二回目が初めてとなる。
「それじゃあいくよ!」ミクちゃんが声を張る。
「せぇーのっ」
「じゃいけーん……」
「さーいしょーは、ぐー……」
「ぐっとぴぃで……」
「ださなきゃまけよ……」
「「「「え!」」」」
それぞれが異なる掛け声を言った。
「なんで?」
「ちょっと違うよっ」
「なぁにそれ?」
「可笑しいね」
驚きを隠せず口々に指摘し合う。同時に異なる掛け声を言ったことが可笑しくて、四人はケラケラと笑った。話し合った結果、掛け声は『じゃんけんぽん』に決まった。
勇渚はどうしても鬼役にはなりたくなかった。心の中で「鬼は厭、鬼は厭、鬼は厭……」と何度も繰り返した。
「じゃ~んけ~ん、ポン!」
勇渚はグーを出した。右手の中にハート模様の石を握ったままでいたことを忘れていた。何かを握っている感覚はあったので、落とさないようにグーを出してしまった。
ところが、他の三人は皆、チョキを出した。勇渚の一人勝ちだ。
「やったぁ!」思わず声が零れる。
三人は鬼役を決めるためじゃんけんを続ける。勇渚は軽く指を広げ、掌の中の石を見た。「鬼役にならずに済んだのは、この石のおかげかな」と、石に感謝した。じっと石を見る勇渚。何かがさっきと違う。大きく丸い瞳を、更に大きく開く。
「あ! ハートが一つ無い」
小さくふっくらした左手の人差し指で、石の向きを変えながらハートを数えた。
「いち、にい、さん、……、はち、きゅう。九個。やっぱり一個無くなった。変なの」
不思議には思ったが、勇渚はそれ以上気にしなかった。
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