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ハートの数
勇渚の家は、三角屋根の小さな一軒家である。玄関の前で尾を振るクックが、その場でクルクルと回っていた。クックは、勇渚が生まれるずっと前から飼っている白毛の柴犬。勇渚に撫でてもらうと「ハッ、ハッ」と云って喜ぶのだ。
勇渚の家には子供部屋が無く、リビングのローテーブルで宿題を済ます。漢字ノートを広げ、テーブルの前に座った際に、コツンと何かが床に当たる音が聞こえた。石だ。思い出した勇渚は、ワンピースのポケットからそれを取り出した。ハートの絵が可愛く、すっかり気に入っていた。宝石でも見るように部屋の電気へ翳し、片目を瞑って眺めた。
「あれ? ハートがまた一つ消えてる」
数えると八個になっていた。眉根を寄せ、しばらく呻っていた勇渚は、ある考えに辿り着いた。
「もしかして、イサナのお願いが叶うと、ハートが一つ消えるのかな」
一つ試してみることにした。
「お母さん、今日の夕ご飯はなぁに?」
「今日は、焼き魚と、野菜炒めよ」
勇渚の好物ではない。お母さんの料理は、勿論何でも美味しいが、やっぱり好物のカレーライスが食べたかった。「よし、やってみよう」と呟き、石を両手で握りしめた。
「今日の夕ご飯が、カレーライスになりますように」
石は光る訳でもなく、勇渚の手の中で静かに蹲っていた。親指から順に一本ずつ指を開いていく。石のハートを確認した。するとまた一つ消えている。全部で七つだ。
「あぁ、消えた ──── カレーの匂い!」
勇渚は急いで振り向き、お母さんに訊いた。
「お母さん、今日の夕ご飯はカレーライス?」
「そうよ」
「やったぁ!」ガッツポーズをする。
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