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究極の選択
六歳が投げる石は、思った方向へ飛ばない。死神の頭上を、高く放物線を描き飛んでいく。
「えぇぇ?!」死神が叫ぶ。
「なんてことを! 石が割れたら、私が消えてしまう!」
石を追いかけるように目で追っている死神の隙を付いて、前に飛び出した勇渚は、クックの紐を掴んだ。死神の手から紐を捥ぎ取ると、まだビルの外側にいたクックは落下する。
その体重は勇渚とさほど変わらない。クックの重さに引っ張られ、勇渚も落ちそうになる。上半身がビルの外側へと出てしまった。塀も柵もない屋上は、掴めるような突起もなかった。勇渚はすぐに力尽き、クックと共に屋上から落ちてしまった。
死神は、石をキャッチしようと追いかけた。屋上の床まであと三十センチのところで滑り込みジャンプをした死神は、伸ばした右手の中指が微かに石に触れる。
しかし無情にも、重力に抗うことなく、石は落下を続ける。空中で身動きの取れない死神を横目に、地面に激突した石は、ハートの真ん中から真っ二つに割れた。
その瞬間に、ビルの屋上から元の田園風景へと景色が反転した。勇渚とクックは、畦道から田んぼに向かって落下していた。バチャッと水飛沫を上げ、二人は頭から水の張った田んぼに突っ込んでしまった。
びしょ濡れの勇渚は、再び畦道へと這い上がる。クックも戻ってくると、ブルブルと身体を震わせ、水滴を飛ばした。
「クック! 助かって良かった」
勇渚はクックに抱き付いた。クックも嬉しそうに、勇渚の頬をペロペロと舐める。死神の姿はどこにも無く、畦道の真ん中で、二つに割れた石が転がっていた。
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