カメラで反撃

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カメラで反撃

 同じ時期、甘夏の自宅周辺に、やたら目立つ男性達が現れるようになった。全員高身長で、警官のような体格と身のこなし。スポーツ経験者だ。  私服を着て一般人に紛れているつもりなのだろうが、後をつけられると気になって仕方のない存在となった。  彼女は彼らを味方とは思えなかった。何故なら、バスに乗ると彼らは必ず複数で待ち伏せしており、車内全体を見渡せる後部座席を陣取っていた。どう考えても自分をマークしている探偵としか思えない。  甘夏は、カメラで彼らのストーキングの証拠を取る事を思いついた。  彼女は「関連付けの症状」で、写メールの操作すら困難な状況だった。だからカメラは市販の使い捨てのものとなる。  朝の通所時、彼女が鞄からカメラを取り出すと、探偵達は最初、笑いながら照れたように逃げた。  甘夏は、彼らが仕事に失敗して降参してるのかと思った。序盤だけの話だが、彼女は探偵と仲良くしてるみたいで面白かった。  友の会港南区支部。老若男女会員の、スマホpcによる情報交換の嵐。太めの30代会員の横島は、普段医療機関に従事している。彼は今、仲間と争うように絶叫していた。  「統合失調だ!」  「怪しいと思ったけど、やっぱり仏敵だった!」  「ついに化けの皮が剥がれやがった!」  「このままじゃこの人のためにならないよ!」  パニックの中、図体のでかい40代男性、持田が叫ぶ。  「もう、やるしかないよ、この人!」  「イャァァァァァ?!」  持田の腕の中につかまって、長身ながら細っこい奴が、片方のこめかみにこぶしをグリグリされ、悲鳴をあげている。集団パニックとは、こうも恐ろしいもの。  彼らはランダムに選んだターゲットに統合失調工作を行い、人権を奪う。人権のない人間からとった、盗撮盗聴、拷問データを、科学者、心理学者、変質者、海外の戦地に売りさばいて財源にしている。友の会は別名、死の商人の会と呼ばれる。  甘夏の前から、笑って逃げ出す探偵はすぐにいなくなった。その代わり彼女の通所時、外出時、老若男女を問わない大量のストーカーが現れ、嫌がらせをしてくるようになる。  甘夏はネット検索だけは出来たので、“コリジョンキャンペーン”“ガスライティング”という用語にたどりついた。しかし、集団ストーカーに狙われたら、ほぼ助からないという事がわかっただけだった。  「潜入やめたい? なんで?」  「グリグリされるから……」  「お前、体術あるだろ」  「だって、やると勝っちゃうんだもん」  こちらはブルーフェニックス成浜本部。たまたま内勤担当だった隊員の若鷺仁は電話を受け、今現在、友の会に潜入している同僚、御門凪から報告というより、愚痴を聞かされていた。  ブルーフェニックスは、友の会に対抗する武装福祉組織。第三部隊の凪や仁は、岬甘夏の被害告発snsをキャッチし、隠密に彼女の周辺を調査している所だった。  凪が言うように、今、友の会で『勝っちゃう』訳にはいかないのだ。目立っちゃいかん。
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