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通る車さえまばらな深夜二時。
その少年はやや緊張した面持ちで、カメラを交差点の中心に向けて直立していた。
年の頃は十八、九といったところだろうか。もう年の瀬も近いというのに、防寒具と呼べそうなものはカーディガン一枚だけだ。
ガードレールの傍に佇む彼は何かを恐れているようにも見えたし、また待ち焦がれているようにも見えた。ただ一途に、何もない空間を見つめ続ける。
深夜といえど、郊外都市には完璧な静寂などありえない。あたりには街の心音とでも呼ぶべきノイズが満ち満ちていた。ハイウェイをひた走る大型トラックの走行音。救急車のサイレン。
そうしたノイズが足音を隠したのだろうか。ハッと気がついた時、その女はすでに彼の真後ろに立っていた。口元に笑みを浮かべて、悪戯っぽく人差し指を立てて。
「ありゃ、失敗」
振り向きざまに頬っぺたでもつつくつもりだったのだろうか。舌の先をチロリと見せつつ、女は小さく手を振った。「やっはー、元気?」
凄まじい悲鳴が、雑居ビルの谷間にこだました。
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