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「おーおー、そんなにいい反応されると、逆にこっちがビビるわ」少し引き気味に、彼女は言った。「どした、幽霊でも見たような顔色だよ」
「……それ、ギャグのつもり?」
その場にへたり込みつつ、息も絶え絶えに言い返す少年。
そんな彼をよそに、彼女は高笑いをしてみせた。文字に起こせば「にゃっはっは」といった感じに。
「で、だ。こんな時間にカメラなんて構えて、君はいったい何を待っているんだい?」
「あなたには関係ないだろ……いや、関係あるのかな。いちおう訊いておきたいんだけど、あなたはいったい誰?」
「あたしー? あたしは君が見た通りの人だよー」
禅問答めいた回答をする女を、あらためてまじまじと見つめる。
ベリーショートの髪。切れ長の利発そうな目。冬の月のように冴え冴えとした印象を唯一裏切るのが、猫の如くキュッと上がった口角だ。その笑みには恨みっぽさは微塵も感じられなかった。
何より彼女には、二本の脚がちゃんとあった。
嘆息する少年。
「お、なんだか不満そうだね。何が言いたいんだい? 怒らないから言ってみ? 返答次第ではお姉さん怒っちゃうゾ」
「怒るのか怒らないのか、どっちだよ……いや、すみません。人違い、もとい幽霊違いだったみたいです」
「幽霊、ほう、幽霊。それなら君が探してる幽霊が、どんな特徴か聞かせておくれよ」
「えーと、あくまで風聞なんですけど、透き通るような色白の美人で……」
「あーそれあたしやないかい。透き通るような色白の美人ゆーたら、もう完全にあたしやがな」
「いや、でもなんか男だったっていう目撃情報もあって」
「あー、ほなあたしと違うかぁ。こんなボンキュッボンな男いないもんね」
「だけどその人曰く、もしかしたら髪の短い女性だったかもしれないって」
「あたしやないかい。ベリショの似合う透き通るような美人いうたら、あたし以外いないよそんなもん。ちなみに好きな猫はアメショーです」
「あ、こうも言ってたな。言動にオヤジ臭さがなくて慎み深くて、清楚そのものだったって」
「ほなあたしちゃうやないかい。こんなオヤジ臭くて慎んでなくて……っておい、ぶっ飛ばすゾ?」
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