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「君はもう寝なさい」彼女は優しく命じた。「良い子はもう寝る時間だよ」
「ああ……あなたもね」
「朝を迎えたら、旅行に出てみたらどうだい? お望み通りの、静かで平和で暖かいところにさ」
「それはいいね! なぁ、また会えるかな? もっといろんな話を聞かせてほしいんだ。今度は僕が奢るからさ」
刹那、彼女の顔に動揺の色が走った。戸惑ったような、あるいは恥じいるような。
が、次の瞬間には、彼女は例の幽霊らしからぬ笑みを浮かべていた。
「本当!? じゃあねー、あたしあっつあつの焼き芋食べたい!」
「焼き芋か、わかった。でも君の好きな食べ物って、女子力を感じさせないよな」
「うっせ! ……またこの時間、この場所にね」
「ああ、約束だ……じゃあ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
別れ際、ふと思いついたように振り返って、彼女は冗談めかしてこう言った。
「ね、月が綺麗だよ」
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