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相談員·塩澤の眼福
塩澤はこっそりと『美し過ぎる公務員』と名付けて鑑賞している島田拓海の依頼にため息をついた。
こういう患者はたくさんいる。わかっているけれど、一人ひとりに関わっていられない。
何せここは大学病院、様々な問題を抱えた患者が入院し、退院し、通院している。
「でも、目の保養もしちゃったし」
病棟の急ぎの面会を終えた後、南大樹の病室を覗いた。
彼はここのところ塩澤を悩ませている患者の手を握って話を聞いていた。その患者は見たことのないような笑顔を浮かべている。
「…天使…」
見た目ではない。雰囲気だ。儚く、力強い。あ、これが島田が懇願に来た理由だと合点がいった。
「来た来た、塩澤さん」
どこからともなく三角師長が現れる。
「師長、お仕事なさっています? 油売っているとまた怒られますよ」
「そうなんだけど、あれよ、あれ」
天使を鋭く睨みつけている。
「人の話を聞くならば、補液でも飲んでくれっちゅうのよ」
「師長も魅入られていますね」
「…バレた?」
いい年だし、いい役職なのに、ペロッと舌を出した後、「よろしくねー」と言い残して三角看護師長が立ち去る。
塩澤は天使に対して何をすべきかもう一度考える。
翌日、改めて塩澤は天使こと南大樹の病室を訪ねた。いきさつを説明すると彼は深くお辞儀する。
「僕のためにお忙しいのに、どうもありがとうございます」
放っておけない。庇護欲が駆り立てられてキュンキュンする。このままだと死んでしまうかもしれない。
一回深呼吸しとこう。
「島田さんから伺いました。一人でいらっしゃると考えすぎてしまわれるんじゃないかと。病院でいろいろと他の患者さんのお手伝をいくださるのもそのせいですか?」
「…僕自身のためです。患者さんを利用してごめんなさい」
「南さんのため?」
「はい。僕でもまだ誰かの役に立てるんだと確認して安心しているんです。ずるいんです、僕は…。ごめんなさい」
その穢れなき瞳に塩澤は眩暈を感じた。いけないいけない、天使を抱きしめちゃいたくなっちゃう!!
「一人では心配だし、かといって病院のような環境は南さん自身を消耗させてしまいそうですし。シェアハウスってご存じですか?」
にっこり笑ってシェアハウスB&Bのパンフレットを手渡す。
「退院してすぐに入居できるわけではないです。でも、ここは地域交流スペースを備えていますから、一度見学されてはいかがでしょう」
そこから一通りの説明を終え、退院したら見学に行くこと、その時に面接も受けられるように手配することにした。
「僕なんかのためにここまで骨を折ってくださって、本当にありがとうございます。僕…、頑張りますから」
最後の天使の感謝の言葉とはにかんだ表情に、これだけで1か月は私も生きていけると感じたことは内緒だ。
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