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長い日曜日
職場に戻り、一人書類作成に励む。雨が上がり、朝日が昇り、出勤してきた係長の関口洋介が苦笑いする。
「何だよー、奥さんに追い出されちゃった?」
じとっとした孝之の視線に関口がひきつった。
「え、まじで? 彩弓先生に叩き出されちゃったの?」
関口の妻が彩弓の先輩にあたる。孝之にとって、公私ともに親しい上司だ。
「自由にしてくれって言われました」
「亭主元気で留守が良くないのか」
「…なんですか、それ」
「おはようございます」
真っ赤な目をして新人の手嶋幸司が現れた。
「大丈夫か?」
「もっとゆっくりでよかったのに」
「ね、眠れなくて」
新人の手嶋は初めて見た遺体にショックを受けて昨日は一日放心状態だった。関口も同行させたのは失敗だったと悔やんでいて、だから昨日は一日時間を見ては手嶋の話を聞いていた。
誰かに話すことで衝撃も怒りも後悔も少しずつ癒えていく。だから、話をする。つまらないことも。
「俺は食べられない。絶食中だ」
孝之は少しおどけて話してみるが、それでも手嶋が目をむく。
「原島さんでもそうなんですか?」
「こいつ、意外と繊細だよ」
「ちょっと失礼じゃないですかね。関口さんとは違うんです。手嶋さん、係長はトクベツだから、いやトクシュだから」
「カタカナで言うなよー」
関口と孝之の会話にやっと手嶋も笑った。
「ショックを受けない奴なんていないし、ショックを受けない人間は児相には俺のチームには要らないから。一緒に受け止めて、またここから始めよう」
「毎回始めっ放しは悔しいですけどね」
「それはこうちゃんが頑張れや。彩弓先生に捨てられない程度に」
…昨夜、捨てられましたよ。
その言葉は飲み込んだ。
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