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点滴が終わり、帰宅した。
がらんとしてよそよそしい我が家からはしっとりとした芳香が漂ってくる。
あのバラだ。
彩弓の白い肌に浮かんだ赤いバラが脳裏をよぎる。
テーブルの上に活けたバラを取り出し、彩弓の寝室に入る。棘は取られているので、茎を掴んでも痛くない。
彩弓のしていたことを思い出しながら、バラをひとくくりにして逆さに吊るす。湿気に気を付ければドライフラワーになるはずだ。
この2日間で何年もの時が流れた気がする。
ちょっとすれ違ってきた妻と仲直りしたいと思っていた時に起きた子どもの悲惨な事件、しばらく忙殺されるはずだ。
そして、妻から離婚を切り出され、好きな仕事に戻れと追い出された。
帰宅してみれば、二人で大切にしてきた写真が壊されていて、妻は大事故に巻き込まれた。
病院で見た妻の体に残された愛の痕と署名された離婚届。肝心の妻は意識不明のまま。
大きく息を吐いて、部屋を出た。主のいないこの部屋の空気を入れ替え、除湿をして。
1か月もするとドライフラワーが完成した。みずみずしいオレンジのバラは、赤いバラに姿を変えていた。
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