最期はあなたと眠りたい

7/8
前へ
/16ページ
次へ
山を下り、駅まで国道を歩く。と言っても片側1車線ずつの道だ。高速を迂回した車両が頻繁に通る。日曜日の夕方とはいえ、車の往来は思ったよりも多い。 自然と縦1列になって歩いてしまう。私の前方には小学生と保育園児の親子連れ。お父さんの背中にいる子どもが退屈を紛らわすように私に笑顔を振りまく。 私にも子どもがいたら…と思う。そうしたらこんなことにはならなかったかもしれない。 卒業と同時に結婚、新婚のまま新人教師として勤めることを優先して、子作りを先送りしたことが悔やまれる。 もし授かっていたとしたらお母さんと手をつないで前を歩く女の子くらいの年だったろうか。 私の後ろはカップルだ。昔の私たちを思い出し、ちょっと苦笑い。あんな時代もあったのにね。 空が急に暗くなった。昼間はお天気だったけど、今夜も雨が降るのかもしれない。梅雨の空は気まぐれだ。 ファーン。 大きなクラクション。叫び声、ブレーキの音。 振り返った私の目には後方から登山客を跳ね飛ばしながら一直線に向かってくる大型車。 「逃げてっ」 目の前の親子を突き飛ばす。次の瞬間には体に大きな衝撃、そして宙に投げ出された。 浮かぶのはあの人の笑顔。 そして頭に衝撃が走り、何もかもが真っ暗になった。 あの人の笑顔は眩い光に飲み込まれ、そして私は暗闇に堕ちていく。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

171人が本棚に入れています
本棚に追加