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そんなキツイ終わり方をした初恋は、中学生になっても俺の胸の奥底で、不完全燃焼のままくすぶり続けていた。
――ったく、本当にちんけな身体だぜ……。
ビタミン剤を切らして随分な俺は、女の身体にいよいよ本当に参っていた。
近頃は嫌悪感さえ湧いて来る。
「生理痛が治まったら授業に戻りなさいね」
保険医がくれた鎮痛薬を飲んで、ベッドに潜り込む。
――もう、今日はずっと寝ていよう。
俺は保健医が部屋を出ていく音を聞きながら、微睡みの中に落ちていった。
『――じゃあ、何か困ったことがあったら何でも相談に乗るからね』
『はい』
『独りで抱え込まないこと、いいわね?』
『はい、大丈夫です』
ぼそぼそとカーテン越しに聞こえて来た声音で、俺は目が覚めた。
――誰かいる?
けれど、それよりも――。
「マズっ……そろそろトイレに行かねぇと」
生理不順は容赦がなかった。
――き、気持ちわりぃ……。
これはきっと身体の問題だけでなく、心が生理的に受け付けない拒否反応なのだと思う。
どれだけ寝ていたのか定かではなかったけれど、俺は薬のお陰で幾分マシになった身体を起こした。
「だ、誰かいるのっ!?」
衣擦れの音で、ベッドに人がいると気づいた人影が、少しばかり驚いた声音を上げた。非難を帯びたその声音からして、どうやら聞かれては不味い話をしていたようだ。
――まぁ、察するに個人相談だよな。
「すいません、体調不良でずっと寝ていました」
何も聞いていないことを暗に含ませて、俺はカーテンを取り払った。
そこには、生徒指導を受け持っている副担任と女生徒。
制服が違うから彼女は転校生なのかもしれない。
素っ気なく、こちらを向こうともしない冷たい横顔を見て、何となく見覚えのある顔だと思った。
肩に触れないほどのショートボブ。
髪筋から覗いた顔は、遊び絡んだ猫っ毛でよく見えなかった。
「もうとっくに下校時刻過ぎているわよ。保健医の先生は起こしてくれなかったの?」
副担任は保険医のデスクにある入室記録簿を確認した。
保険医の承認印を認めて眉根を寄せる。
――へぇ、へぇ。ただのサボりじゃないっすよ。
「そのようでっ……す」
上靴を履いて立ち上がろうとした俺は、立ち眩みを起こして足元をふらつかせてしまった。
ガクッと足にまるで力が入らなかった。
貧血――そんな俺に伸ばされた手は、女子生徒のものだった。
冷たい印象だった手は存外に温かいものだと知るも、俺としてはそれどころではなかった。
「ちょ、ちょっと大丈夫?」
副担任が慌てて、駆け寄った。
「はぁ……今回、結構(生理が)重くて……すいません」
俺は歪む視界が煩わしくて、きつく目を閉じた。
「先生、取り敢えず彼女をトイレに連れて行きますね」
『ねぇ、体操服とか何か着替えがある?』
彼女の潜めた言葉に、どうやら制服を汚してしまっていることを知った。
――最悪だ。
気分も何もかもが最低な一日だった。
けれど、末路はもっと酷かった。
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