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「なーぎーさーくーんこっち向いてー♡」という声にすら無反応である。
女子にチヤホヤされているのを見てソワソワしてる乙葉がいる。
「見てるこっちがむず痒いっ!!」
「好きなのかわかんないって言ってるけど、なんやかんや乙葉ッチ、野木にほだされてるよね」
完璧に野木に心が惹かれてる。と4人は頷く。
「結局、あの2人は両思いなわけ?」
「乙葉ッチ気付いてないみたいだけどね」
「手もまだ繋いでないんだよね?!」
「えぇ、絶対ヤリチンだよね、野木くん」
でなきゃ女子にあんな冷遇しないよね。
もういろんなの潜ってきた感あるもん。
「チッ、イケメンだから腹立つ」
「ただし黙ってれば本当カッコいいから許す」
「右に同じく」
「アンタらもゲスだわ」
ほらほら、あの2人のアオハルの手伝いするならあのファンクラブ片しに行こ〜と恵美が背中を押していく。
「最近ポニーテール多いね。暑いから?」
ワックスがけを終えて片付けていると、白髪の天使にバケツを奪われてしまった。
「野木くん!ごめんね、時間かかっちゃって」
ポニーテールなのは暑いからっていうのもあるんだけど、SNSの写真の影響のせいかポニーテールにしてってリクエストが多いからだと説明すると、ムッと口元が歪んでいくのがみえた。
「俺のリクエストも聞いてほしいんだけど」
「リクエスト?」
なんだろう?
野木くんの悪戯にくしゃっとなる笑顔にドキッとする。
「これからデートしよう!」
「へっ?!」
如月乙葉、16歳にして初のデートです。
驚きすぎて「今から?」と聞き直すほどだったが、野木くんは「予定あるなら無理にとは言わないけど」と寂しそうに言う。
「予備校に行く前までなら」という約束で急遽決まったデートに緊張してきた。
水色のポロシャツの胸元には小さな胸ポケットがついており、校章が入っている。
灰緑のグレンチェック柄のスカートは膝丈にしている。雪子ちゃんたちには丈を短くすればスタイル良く見えるし、脚長効果が!と言われているが、校則は厳しい為校内にいる限りではしっかり遵守していてる。
膝より上にするとやっぱ見えちゃうと思う。
だけど、学校の外に出てデートだ。
少しくらい可愛く見られたい気がしている。
何より、こんなモデルみたいに綺麗な人の隣に立つのだから、少しでもマシに見えるくらいになりたい。
今まで私に配慮して(??)素行不良の格好してくれていたのかもしれないと思うと、私も頑張って努力しなくてはならないと思うのだ。
私のレベルに下げてくれていたのだと思うと余計に居た堪れない。
身嗜み整えてくるという名目でトイレで丈を詰め、髪の毛も整え、リップを塗り直しておく。
どうしようっ。
野木くん、きっとデートとか慣れてるだろうから余計に緊張するかも。
デートスポットとかまったくわかんないし、何したらいいのかわかんない!!
私が今まで読んできた小説や漫画、映画とかでもデート=手を繋いだり、抱き合ってたり、キスしてたりだよ?!
私が野木くんと手を繋ぐとかアイドルと手を繋ぐみたいな?!
わぁ、無理無理っ。
手とか汗でベタベタで野木くんにドン引きされそうだし、抱き合うとか。
野木くん、そういえば細いように見えて筋肉しっかりしてたな。筋トレとかしてるのかな。
先日腕を引かれて彼の胸板に包まれたことがあったのを思い出しては、乙葉の破廉恥!と思考を振り払う。
邪念だー!もう勢いでいこう!何も考えない!
女子トイレの戸を押す。
ネオンカラーのレモンイエローのリュックを左肩にかけ、壁にもたれて待っていてくれた。
目が合えば、パッと顔が明るくなり、微笑まれる。
その笑顔がいつも特別なことのようで、野木くんの笑顔に最近ドキドキしてしまう。
やっぱ面食いなのかもしれない。
「暑い中待たせてばかりでごめんね」
「待ってる間も楽しいから平気だよ」
「楽しいの?なんで?」
眉頭を歪めて問うと、野木くんは腕を組んで首を傾げる。
「うーん、乙葉の顔が見れるから?」
「うーっ、野木くんはいつも恥ずかしいことばかり言ってる自覚あるの?そういうの耐性がないからどう反応していいか」
「そこが可愛いのにな」
「初めて会った時からその調子だよね。私野木くんといつ会ったのか覚えてないのに」
こんな不公平があっていいのかなと不服そうに頬を膨らませると、野木くんは悶えるように「可愛すぎて目の毒」とか呟いている。
そんなこと覚えてなくても構わないよと彼は言うけれど、その出逢いを大切にしてくれているんだと思う。
だからこうして、彼がココにいるんだ。
「デートしに行こっか。奢るから何か食べたりしよ!水族館にでも行っちゃう?」
「予備校あるから行けないよー」
「じゃあ、夏休み入ったら一緒に行こうよ」
明日から夏休みということを思い出して、我に返った。
そっか。明日から暫く野木くんと一緒に帰れなくなるんだもんね。
会えなくなるのは、寂しい、かな。
「夏休みに野木くんに会えるの楽しみにしてるね」
素直に気持ちを吐露すると、野木くんはびっくりしたような顔をし、視線が頼りなく自身の手元へと落ちていく。
「じゃあ、ID交換しとこーか?これ、俺のQRコードだから」
クリアカバーがかかったスマホを差し出されると、画面には野木くんのQRコードが表示されている。
画面が暗くなる前に慌てて彼のスマホに自身のスマホをかざし、カメラ機能で読み取る。
「なんか、今更感だよね」
登録できたよと彼のアイコンとプロフ画を指差す。
「本当、今更だね。でも、今でよかったと思ってるよ」
意味深にほくそ笑む。
疑問を感じているとスマホにピコンと通知音か鳴る。
野木くんのアイコンから吹き出しが出ている。
「“右手を前に出す”?」
声に出して読み上げながら右手をゆるりと前に出す。
その手を大きな手が包み、細く長い指が私の指と交差する。
ぎゅっと繋がれた手が、彼の顔が近づいた。
彼の唇に寄せられて、チュッと爪にキスされる。
野木くんは瞳を細めて、妖艶に笑う。
「デートだからさ」
恥ずかしくて思わず手を離しそうになったが、彼は離すまいと、しっかりと指を絡ませていた。
もうずっと心拍が上がりっぱなしで、心臓が持ち堪えられる自信が喪失していた。
イケメンの笑顔の破壊力もだけど、色気も目に毒だ!!!
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