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「歴代の彼女たちから伝授してもらったんだね!」
他意はなく、純粋に放った言葉に野木はメニュー表をボトッと膝の上に落としていた。
「なんでそうなる?!」
野木くんの声に反応してラベンダーカラーのうさ耳がぴこぴこ動く。
なんか凄いシュールな絵面である。
「嫉妬してるとかじゃないよ!ただ、男の子も大変なんだなって思って」
「そうでなくて!こういうのは乙葉だけだよ?!」
うそだ〜と笑って手をパタパタさせたが、野木くんは若干落ち込んでいるような、心ここにあらずという感じでメニュー表を覗き込んでいた。
「乙葉って底なしの鈍感さだよな」
「どうゆうこと?」
「ううん、そういうとこも好きだなって思って」
ただ単に情報処理能力に長けているだけであり、卒なくこなすことがアダとなる。を学習した野木くんだった。
「乙葉、注文したいもの決まった?」
「このうさメロLOVEいちごパンケーキスペシャルってやつ食べてみたいかも」
4段に積み重ねられたふわふわのパンケーキにイチゴジェラートが添えられ、その横にイチゴホイップと生クリームがドッサリと絞ってある。
パンケーキを包むようにハート型にスイライスされたイチゴが華を添え、チャービルが可愛らしくイチゴの上にちょこんと置かれている写真だった。
少し大きそうだから、野木くんも食べれるかな?
一緒にどうか?と声をかけようとしたが、野木くんは目の前を通り過ぎようとした店員さんを呼び止めた。
サクサクと頼んでくれる様は、高校生と思えないくらいに淡々としている。
普通の男子高校生みたいだと思う瞬間はたくさんあるけれど、こういう時はまるで大人のように余裕がある。
素振りや話し方は高校生らしくなかった。
白桜御学院に行った人はみんなあんな感じなのかな?
というか、私ってば野木くんに頼りっぱなしなのでは?!
あまりにスマートにこなしてしまうから、ちゃっかり野木くんのペースにハマってしまっている。
「私何も出来てなくてごめんね」
なんだか情けなくなってくる。
だが、野木くんはなんのこと?と首を傾げてみせた。
その姿だけを切り取れば、普通の男子高校生だ。
いや、やっぱモデルみたいに綺麗すぎる、、、。
野木くん本当は芸能人なんじゃないだろうか。
「何も出来てないって、特に何かするようなことないし、気にしすぎ」
「その、勢い余って付き合うって言ったのは私だし、凄く失礼なことばかりしてたはずなのに、どうして好きになってくれたのか」
心のモヤモヤを打ち明けるように言葉が出てくる。
「強いて言うなら、俺に持ってないものを乙葉が持っているから。って言えば納得してくれる?」
理由なんてどうでも良くないー?なんて言う。やはりどこか違和感を感じるのは私の勘違いでは無さそうだ。
「でも」と、否定の言葉を口にする前に「好きになってほしいんだ、心から」と遮られる。
「乙葉といると心が穏やかになれて、こういう人生をやりたかったんだな、俺って思って。ただ純粋に俺を好きになってほしい。それだけだよ」
答えになっているようななっていないような。
だけど偽りのない言葉は胸の奥に、溶けるように、絵の具が水の中へと落ちるような、そんな感覚になる。
「もっと俺のことだけを見て」
なんて綺麗な瞳なんだろうか。
瞳の中に宝石があるみたいに、キラキラ、キラキラ。
星のライトの反射が彼をより引き立たせる。
「好き、かまだ、よくわかんない。だけど、明日また1番におはようって言いたいのは、野木くんだなって、、、もっと近くで見てみたいって思うのは、すき、、、って気持ちに近い、かな?」
開放感あるソファの上はなんだか心もとなくて、そばにあるクッションをそろりと抱きしめる。
安堵感半端ない。
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