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うさメロの愛らしいぷるぷるフォルムのイラストが入ったメガネケースから、金縁の細いフレームのメガネをかけ、Bluetoothイヤホンを装着する。
噂の的になるのはやっぱ気分は良くない。
身をもって知っているせいか、そういう噂を聞いてもあまり気にしなくなった。
私が経験した噂は野木くんの噂に比べて可愛いものだけどね。未だビッチ説は続いているのに、野木くんとの恋人説は消え失せてしまっている。
元々地味でガリ勉女と付き合っているという噂はそこまで面白くなかったのかもしれない。
幸い、妬みや嫉妬類の視線や陰口は言われることもなく、まとわりつく視線や噂の話以外では嫌な思いはしていなかった。
だからこうして平穏な生活(?)を送れているのだろうけど。
雪子ちゃんを始めいろんな子たちと友達になれたことが嬉しかったから、噂の産物でもある。
なにより、噂にならなければこうしてオシャレすることもなかったはずだ。
可愛いって言われることが、こんなにも嬉しく、自信をつけさせてくれる言葉だったなんて知りもしなかった。
オシャレをし始めて人が集まるようになったが、オシャレをしてない私自身を見てくれたのは、やはり野木くんただ1人だけだった。
「好きだよ」とまっすぐに伝えてくる、長い前髪の隙間から見えたあの青い瞳だけは、どうしても忘れられない。
キュゥっと胸の奥に募り昇る熱い物がなんなのかわからないのに、この気持ちは野木くんの熱い眼差しを欲しているみたいだ。
「あれ、、、?」
細く、不安に押しつぶされそうな声が口から漏れる。
レンズに張り付く雫で眼鏡が濡れていることに気がつき、ぽろぽろと無数の雫がノートや手の甲を濡らしていく。
え?涙?なんで?
うさメロのチャームがついたシャープペンシルをノートの上に落とす。
手の甲で拭っても拭っても溢れてくる。
何で泣いているのか、自分自身でもサッパリわからなかった。
ただ、ただ、彼のことを考えていたら涙が溢れてしまう。
胸の中が、喉の奥が熱くて、鼻の奥もツンとした。
野木くんに逢いたい。
ただ、とてつもなく彼に逢いたくて仕方ない。
毎日、ただ隣を静かに、私に合わせて歩いてくれた彼に。
さりげない優しさをくれた彼に、今とても逢いたいんだ。
「俺の人生に乙葉が必要なんだ」
あの言葉が今になってジワジワと心の中に浸透してくる。
あぁ、『この気持ち』が“好き”なんだ。
この涙は、1年分の彼の気持ちを理解出来た証で、理由なんてちっぽけなものなんだって知るものだった。
「理由なんている?」そう言っていたのはあながち間違いではなかったかもしれない。
だって『心』が君が良いと言ってる。
ただそれだけなのだから。
彼の顔を声をそばで感じていたい。
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