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陽が落ちきる前に図書館を出て、家まで送ってもらうことになった。
相変わらず歩幅を合わせて歩いてくれる。
会話の少ない普段とは違い、今日は野木くんの旅行でのお土産話で話が弾んでいた。
普段なら静かでソワソワしていた帰り道がこんなにも笑って帰る日がくるなんて、想像したことがあっただろうか?
あの噂が凄い野木くんと両想いである。
好きだと伝えてないけど、まだ恥ずかしくて言えないなぁ。
もう少し自信を持ったら伝えてみよう。
でも、野木くんは毎日のように好きだと伝えてくれているし。
わぁ、やっぱり勇気出ない!
野木くんのこと知らないことばかりだ!
自信持って彼のここが好き!と言えるようになるまでは言わないでおこう。
「野木くん、うちの高校にヤクザの息子さんがいるって噂聞いたことある?」
帰り道の途中にあった珈琲屋さんのイチゴスムージーを手に持っていたのだが、野木くんは飲んでいたようで噎せていた。
「え?!」
驚いた顔しているところを見ると知らないらしい。
「さっき図書館で大学生が話してたの。ヤクザって普通に高校入れるんだなぁて」
「いや、思うところソコ?笑
じゃなくて、ヤクザの息子ね。それにヤクザの子供でも通えるよ」
拍子抜けしたように笑った野木くんに少し違和感を覚えたけれど、それが何を意味しているのかは分からなかった。
「そうなんだね!確かに、子供はヤクザってわけじゃないもんね。でもなんで知ってるの?」
みんな疑問に思うところだと思ってたよ。と唇を尖らせて言うと、野木くんはニッコリと貼り付けたような笑顔で言った。
「任侠ドラマで見てたことあったからね」
「任侠ドラマかぁ。血とか暴力なの苦手だから見たことないなぁ。野木くんはアクションシーンが入ってるもの良く観るの?」
色んなの観るけど、任侠ドラマはたまたま見ただけで好きじゃないよと言われる。
野木くん程喧嘩が似合わなそうな人いないもんね。
優しいし、誰とでも仲良くなれ、、、あれ?
ん?
そういえば、最近はなくなってきてたけど、野木くん怪我よく作ってたんだよね。
チラリと見あげ、野木くんの顔に傷がないかを確める。まつ毛は長くて、鼻筋がくっきりとしていてまるで彫刻みたいに綺麗である。
今のところ傷はなさそう。
聞いても良いのかな?なんで怪我よくしてたのって。
でもあの頃ほぼ毎日傷作ってきてたし、もしかしたらお家の事情が宜しくないとか?
安易に聞いて気分悪くなったりとかしたらどうしよう。
「野木くん、何か困ってることがあったら、その、頼りないかもしれないけれど力になるからね!!」
「急にどうしたの?」
唐突すぎて野木くんは唖然としてこちらを見下ろした。
「いや、なんか不安になるようなこと俺しちゃってた?」
眉根を下げてシュンとしてる顔が少年のようで可愛い。
「聞いていいか分からなかったんだけど、野木くんよく怪我してたから。最近は傷増えなくなったけど、お家の事情なのかな?と思って聞けなくて。野木くんが困ってるなら私」
「ストップストップ」
街頭の下で立ち止まり、野木くんは頬を指で掻きながら考えるように首を傾げた。
「あの傷は俺がヤンチャしちゃったというか、この顔だからなのかよく絡まれるんだよ」
「から、まれる??」
「そう。だから、あんま心配しなくても」
「心配だよ!野木くん素行不良なところあるし!」
あ、あぁ。と心当たりがあり過ぎて返す言葉に詰まらせている野木に、乙葉は無意識に野木の手を掴んだ。
「今日は私が野木くん送るからね!!」
「へ?」
「拒否は無しだから。私、1度決めたことは遂行するまで諦めないからね!」
無駄に高い正義精神に野木もたじろぐ。
「いや、でも」
「あ、でも迷惑だったかな?」
我に返って、野木くんの手を掴んでいたことにも気が付き手を離した。
「迷惑っていうか、行くところがラブホなんだけど」
「え?」
野木くんの噂に、ラブホが自宅なんじゃないか説があったことをこの時思い出した。
唖然としている私を見下ろしている野木くんは、試すかのようにニンマリと笑う。
その笑顔は悪戯っぽくて、蒸し暑さすら忘れてしまうほど綺麗だった。
こう言えば諦めると思ってるに違いない。
ラブホ、ラブホって恋人が行って愛を育むところだよね?
なんでラブホ住まいなのかも謎すぎる。
繁華街だから酔っ払いとかに絡まれるってことなのかな?
飲み屋街も始まってる時間だし。
うーんっと唸るように口角が下がる。
「念のために言うけど、ラブホテルは未成年入れないよ?」
「あ、そうだね!」
私まだ17歳になったばかりだし、入れるところじゃない、、、。
って違う!!
「そういう意味じゃないよ」
「えー?てっきりお誘いしてくれてるのかなー?なんて思ってたんだけどなぁ」
「野木くんが絡まれるのを見過ごす訳にはいかないもん。怪我したら痛いだろうし」
からかう野木くんを睨み返すようにムッと見上げる。
「ほんっと、そういう正義感の強いとこ変わってないんだなぁ」
懐かしむように微笑む野木くんの瞳はとても柔らかくなり、私の頬をムニッと人差し指でつつく。
「なんか言った?」
「なんも言ってないよ。
そんで、やっぱり来ちゃダメだ。繁華街にあるし、酔っ払いはもちろんだけど怖いお兄さんお姉さんもたくさんいるから、そんなとこ連れていけないよ。大人しく俺に送られていなさい」
ポンポンと子供のように頭を撫でられた。
「そうだけど、野木くんのこと心配だから」
「素行不良の俺なんだよ?喧嘩上等〜」
と上腕筋を叩いて舌をペロっと出しておどけてみせる。
素行不良を根に持たれてる?
「それに、俺も好きな子がベッド前にいて待てを出来るかどうか自信ないし。襲われたいわけじゃないなら来ちゃダメでしょ」
「の、野木くんがそういう事するようには」
「見えない?でもするよ。だって男だもん。えっちしたいよ。乙葉と」
あぁ、これは牽制だ。
わざとハッキリそう言葉にして、「来るな」と言われてるんだ。
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