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家まで送り届けてもらったあと、野木くんといつものように別れ去って行った。
新築戸建ての暖かみのある黄色い外壁とレンガ色の屋根が我が家だ。
高校に入ったあとに越してきたこの家にまだ1年と半年しか経っていない。
毎日のように送ってもらっていたこの玄関前が、今はちょっとした思い出の場所にもなっていた。
そして、私はある決断をしていた。
野木くんはどうしても来るなと言っていたけれど、必ず遂行するまでは諦めないのが私だ。
野木くん口が達者というか、歯が立たないから今日は帰ってきたけど。
野木くんは少し過剰なくらいに心配性なところがある気がする。
毎日の送りもそうだけれど、嬉しいとも思うが、過保護にされたいわけではない。
頼りになる野木くんの役に立ちたいと思うのは、きっと彼女だからとかだけじゃないはずだ。
「野木くんのボディーガード、、、にしては頼りないかもしれないけれど、何かあったら警察に連絡できるようにしとこ」
自分の部屋に入って、明日の為に準備することにした。
夏休みの間、少しでも生傷を作らないように。
そして、普段の野木くんを知る機会だと、ちょっとした下心も持った日だった。
乙葉に対してはとても紳士的で、クラスメイトたちとも打ち解け、いつの間にか学級委員になっているくらいに皆を統率している。
普段寝ているのに、指示を出すのは的確だし、労いや気遣いも行き届き過ぎていて、クラスでは人気者だ。
1年生の時とは本当に別人になりすぎて、私の心が追いつかないのも納得だと思う。
けれど、全て私のためにしてくれているのだ。
「本気出すから、覚悟してて」
彼のあの言葉は実現して、彼の本気にしっかりと揺らいでしまって、今や野木くんのことを考えない日々は無い。
「凄いな、野木くん」
眼を閉じれば、彼の言葉や笑顔、ぬくもりも匂いすらも思い出せるくらいに。
好きになってきている。
日に日に増していくこの膨らむ気持ち。
お風呂に入りなさーいと1階から声がした。
着替えの支度をして、淡い水色花柄カーテンを閉めようとして、空を見上げた。
月がくっきりとしていて、美しく輝いている。
あぁ、なんて綺麗なんだろう。
もし、1年生の時にも野木くんが今の私と同じ気持ちだったらと思うと、胸の奥が痛い。
曖昧な気持ちで、彼と付き合ってしまったことを後悔している。
「ごめんね、野木くん」
闇に包まれた月を見て、心が切なくキュッと締まるような心地になった。
私の曖昧な態度に一喜一憂したかもしれない。
拒絶したこともあったし、傷付けてきたかもしれない。
だから余計に、彼のために色々してあげたいと思う。
私が彼女であることで、彼に迷惑かけることもガッカリされるのも嫌だと思う。
せめて彼の気持ちにもっと寄り添えたら、、、。
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