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ラブホテルの名前を出したり、野木くんの特徴を伝えながら歩くこと1時間。
ラブホ街と言われるだけあり、ホテルの数が多すぎて迷子だ。
気がつけば裏路地にまで来てしまい、スマホを片手にあっち来てはこっちへ行くで、同じ道をグルグルしている。
炎天下の中歩き回ったのもあって、流石に脱水になりそう。
「この辺だって聞いたんだけどなぁ」
さっき通りかかった人に野木くんらしき人がこっち方面に歩いているのを見たと聞いて、走って来たのだが、野木くんらしい人物は見当たらない。
雑居ビルの日陰に入り、自販機で500mlのペットボトルを購入した。
額や首に当てて、ささやかに涼しむ。
すると、道の向こうから誰かが走ってこちらに手を振っていた。
「いたいた!さっきのおねーさん!キミ、白髪の男の子探してるんだっけ?」
目は糸のように細く、鼻はツンと上に向いている男性が話しかけてくる。
この人、さっきお店でナンパしてきた人だ。
「どうしてそれを?」
素直に疑問に思い口にすると、男性は優しげに笑って言う。
「この辺はオレの庭みたいなもんだから、すぐ話入ってくるんだぜ!君が探してる白髪で身長の高い男の子なら、オレの知り合いなんだ。そこのラブホに入って行ったのを見たよ」
「ホントですか?!」
ホントホント!一緒に行こうかと言われるがまま肩に手を回される。
なんか、初対面の人に肩を抱き寄せられるのは不快だなぁ。
「あの、離れてもらっていいですか?」
ムッとしながらそう言うと、男性の顔が一瞬歪んだように見えた。
ごめんごめん。オレのダチと仲良いみたいだったから、友達感覚でやらかしちゃった。
肩を離して貰えたが、腰に手が回される。
この時、無理にでも嫌だと言っておけば良かったのだ。
せっかく教えてくれているのに、変に無下にできないと思い、腰に回された腕はそのままにしてしまった。
入口はとても清潔感があり、オシャレな建物の前まで案内され、狭い入口を指さされる。
「先に入ってて!今彼に電話してくるから」
「あ!すみません!」
スマホを持って踵を返した男性を呼び止めると、にこやかに振り返る。
「野木くんに会ったら怒られちゃうと思うので、電話はしないでください。その、彼の手伝いをしたくて来ただけなので」
ふぅんと手に持っていたスマホをおしりのポケットに入れ、「内緒のお手伝いなんだ?」と怪しげに笑う。
「じゃあ野木くんから隠れられるように部屋取っておくね」
「あ、そこまでしなくても大丈夫です!」
いいからいいからと、部屋の写真と部屋番号の書かれた大きなディスプレイをタップすると、その下の機械からカードのような物がシュッと出てきた。
「もうお金払っちゃったし、行こいこ!」
「え、でもお金」
「大丈夫大丈夫!オレの奢り!」
早く行こ行こと急かされ、男性がエレベーターのボタンを押すと戸が開いた。先に乗るよう促され、エレベーターに乗る。
他にお客さんがいたのか、私の背後に背の高い男が立っていた。
昼過ぎだけど、ラブホテルって意外と利用者多いんだなぁ。
初めてのラブホテルに興味津々である。
そこでハッとする。
「あ、あの!私まだ17歳で、ホテル入っちゃったんですけど、大丈夫なのでしょうか?」
ホテルの中まで入る予定ではなかったのだが。
罪悪感がじわりと滲む。
野木くんに見つからない為の部屋だと言われたが、大丈夫だろうか。彼を見つけて尾行しようとしただけなのだけど。
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