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気がつけば年は明けて、クラスメイトたちは野木渚と如月乙葉が恋人である。という認識は薄れ劣化し、消えていた。
誰が見てもガリ勉女と不良少年。
相成れない2人だと認識されて、あれは転校生なりの自己紹介だった。という噂にもなっていた。
実際、本当にそうであれば良かったけれど。
毎日欠かさず彼は一緒に下校する。
そんな曇天の春。
私たちは新学期を迎え、2年生になった。
何が作用したのか分からないが、野木くんとはまた同じクラスになった。
新学期になると、毎回同じ三つ編みヘアを見かねた母が「いい加減優等生演じるのやめなさい」と、ヘアゴムとメガネを禁じられる。
別に優等生を演じてたつもりじゃない。
雨季になると髪の毛のお手入れが大変だし、寝癖なおす手間が省けるヘアスタイルが三つ編みだっただけだ。
母もそう言うには理由があった。
自慢じゃないけど言いたいことははっきり言うタイプで、物怖じしない性格だ。
だ、け、ど!!
流石に転校生に突如告白され、勢いで頷いてしまった手前、あれは勢いでしたーという勇気が出なかった。
あの時素直に訂正入れてけばこんなことにはならなかったのに。と、今でも後悔している。
けれど、たまに思う。
こうして野木くんと2人で帰ることに慣れてきていて、会話もない帰り道だけどなんかドキドキするような気がしていた。
恋か?!とも思うし、噂による吊り橋効果?みたいのがあってなのかな?とか。
とにかく彼といるだけで面白い考えが浮かぶのが段々と楽しくなってきている私がいたから、言えないでいたのも事実だった。
あのあと、噂は本当に様々あって、野木くんが他校の生徒をタコ殴りした。とか、薬やってる。とか、ヤクザとの繋がりを持ってるだとか、女の子とっかえひっかえしてるとか、部屋に美人を侍らせているとだとか、まぁ良くない噂ばかり耳にしてきた。
なんなら野木くん隠し子が100人いるとかも聞いている。さすがに嘘だろうとは思うけど、彼が謎ゆえに生傷絶え間なく作ってくるから、そう思われるんだろうなぁ。
住宅街を無言のまま歩く日々には慣れたもので、彼のさり気ない優しさにも気づいてきている。
車道側を歩くのはいつだって野木くんだし、身長186cmあるはずの彼の歩幅はいつだって私の歩調に合わせてくれていた。
雨の日には大きめの傘をさしてくれていたり、歩道橋を渡る時は必ず先に登らせて、下る時は先におりてくれていた。
どれも私を気遣ってくれている。と思いたいだけなのかもしれない。
それでも、唯一、「彼氏」として役割を果たしているのだとしたら、なんだか心があったかいような。
「着いたよ」
薄茶色のブレザーを身にまとった彼を見るようになったのは半年くらい経つかな。
転校してきたばかりの頃は白学ランだったし、いい所のお坊ちゃんなのかなと思ってたけれど。
彼の大きな背中を眺めるのも慣れてきて、「今日もありがとう。また明日ね」といつもと同じセリフを吐く。
決まって彼は何か言いたげな顔して、だけど「じゃ」と振り返ることなく帰路につくのだが、今日の彼はなんだか違う気がする。
「どうしたの?」
普段なら素気なく踵を返すところなのだが、灰色がかった瞳がこちらをまっすぐ見つめてくる。
あの「キスしていい?」の発言以来、こんなじっと顔を見たことが無いことに気がついたのは、彼の唇が開いた時だった。
「ずっと言うタイミング逃してた。髪、可愛いね」
今までは三つ編みにしてた髪を今日から下ろしたままにして、少しヘアアイロン当ててストレートにきただけなのだが。
なんてことない髪型なのに。
「顔赤くなってる。熱?」
ピトッと彼の手の甲が額にくっつけられ、声にならない悲鳴をあげていたが、彼には嫌がられているように捉えたようで、「ごめん」と手を引っ込められた。
「ち、違うよ!その、びっくりしちゃっただけで!髪型変えたことに反応してくれるなんて思ってなくて、その、あり、がとうございます、、、、」
今顔が熱い。
見られたくない。恥ずかしいっ。
あの時みたいだと思った。
うなじが細くてかわいいとか言われたあの時みたいに、隠れたくなるくらいに恥ずかしい‼︎
なのに、どうしてかすごく嬉しいと思っている。
そういえば、新しいクラスになって髪型が変わったせいか初日にしていろんな人から声をかけてもらった。
メガネもしてないから、あの噂になった如月乙葉のことなどみんな忘れているのかもしれない。
髪型変えたの?可愛いねー!といろんな子に褒めてもらえて嬉しかったが、野木くんに言われたその「かわいい」は破壊力がある気がする。
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