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耳元で囁く、甘い声に思わず固まる。
「ごめん。自分の気持ち抑えなきゃって思ってるんだけどさ、如月さんみたいに俺、頭も良くないし、大人しいキャラにならないとなーなんて、思ってんだけど」
「は、はぁ、、」
普段に比べてよく喋る彼に戸惑いが隠せない。
灰色がかった青い瞳に熱がこもってる気がして、目が離せない。
「手に入れたい物は絶対、欲しいから。
あー、だから、なんて言うんだ?喋るとボロが出るから、カッコ悪いんだけど、喋れなかったというか、、、怖がらせたいわけじゃなくて」
????ん???
どゆことなの?
今まで私に合わせてきてくれてたってこと?
そういえば転校してきた二日目、キスしても良いか?の、問いにダメだと答えたら一切触って来なかったし、あまり、話してこなくなった。
恐る恐る口を開き、真実を確かめる時がきたのだと悟る。
「怖がってない。とは否定できないんだけど、転校初日に告白されたからびっくりしちゃってて。私のどこが好きなのかもよくわかんなくって、戸惑ってる、、、が正しいかも」
私の言葉を一つ一つ聞いてくれてる熱の篭る視線を受けて、ボールペンを握る手に力が入る。
教室に吹き抜ける風がほのかに温かく、春の香りがしたみたいだった。
「やっぱり覚えてない、か」
彼は眉根を下げて困ったみたいな顔して微笑む。
「どこかで会ったことあるの?」
どうしよう、覚えてない!
冷や汗が首の後ろをドッと濡らしていくのではないか?!と言うほどに動悸がしそうだった。
視線が彼から天井へと滑らせていく。
会ったことあったっけ?こんな黒髪のチャラそうな男の子。
「いや、覚えてないなら思い出さなくて良いから!」
考える乙葉の頭に彼の両手が乗る。
乙葉の顔を包む大きな手は、視線をこちらに戻すよう促しているようで、そろりと彼を捉える。
気恥ずかしそうに口元がへの字に曲がっていて、今まで見てきた彼の印象が変わってみえた。
「野木さんって、掴めない性格なんだと思ってて、どう話したら良いかわかんなかったけど、今こうして見てる今日の野木さん可愛いって思ったよ」
ふふふっとつい漏らした笑い声でハッと我に返る。
彼の右手は元の位置に戻ったのに、左手は私の頭を捕えたままで、壊れ物を触るような優しい温もりを感じている。
私の髪を撫で頬を包み込んでくれる。
まるで彼女のように。
かぁっと喉の奥まで熱くなるような気恥ずかしさを隠せずに見つめる。
「可愛いのは乙葉ちゃんなんだけどな」
見たこともないような優しい眼差しを向けてくる彼の瞳を知って、体全部が燃えるように熱く感じた。
な、名前でサラッと言うとか、、、?!
「野木くんってチャラいって言われたことない?」
「無いかな」
即答で答えてくる野木くんは本当、貫通するんじゃないかってくらい見つめてくるから息をするのも忘れてしまいそうになる。
「ほ、本当に?だって、こうやってサラッとボディタッチとか、慣れたように好きって言ってくるし」
「嫌だった?ごめん」
「そう言うわけじゃないんだけど!」
左手が離れてしまうかもしれないと慌てて言えば、彼は口角を上げて、私の右耳をみゅっとつまんできた。それがまた優しく触るものだからくすぐったくて、身じろぐ。
「優等生の子にどう接したら良いのか、距離をどうしたら良いかわかんなくてさ」
「あ、なんかモテる発言みたい!」
「実際、僕モテちゃうからなぁ〜」
「え?!そうなの?」
「乙葉ちゃんからそう言われると傷つくな〜」
前髪長いし、素行不良だから怖がられてる存在だと思ってたけど、実はモテていたの?
ごめんと笑って返すと、彼はニッと悪戯に笑った。
「幻滅した?寡黙な男じゃないから」
ん?私寡黙な男の子好きとか言ったことあったかな?
「ううん、てっきりあまり話したく無い人なのかなって思ってたから、今日たくさん話せてすごく嬉しい、って気持ちかな」
いっときドラマの一誠(いっせい)くんの影響で寡黙な男が理想とか思っていた時もあったけど。
素直な感情を述べていくと、彼は少し考えるようにじっと見つめてくる。
私が知らないだけで、野木くんはよく人の顔をジッと見てくる癖があるんだな。
身長高いから見上げる勇気もなくて、気づけてなかったな。
右耳を触ってくるのも、彼の癖?それとも触ってみたいだけ?
わぁ、恋愛初心者には男子高校生の感情が掴めないよーーー泣
「なんだ。最初からこうして話せばよかったな」
「そう、だね!お互い遠慮しちゃってたのかな」
ははっと乾いた笑いを浮かべれば、彼は右耳から手を離して髪の毛を撫で掬う。
「あ、髪の毛下ろしてみたけど、ちょっと調子に乗っちゃってるかな?」
照れを隠すように言葉を吐く。
彼が触れる髪の毛に神経が集中してしまって、髪の毛手入れ行き届いているかな?!なんて焦っている私がいる。
「可愛いけど、これ以上かわいくならなくて良いと思う」
「へ?」
無駄なことするなブスってこと?(陰キャノーポジティブ思考)
一瞬でマイナス思考が働いて目が動揺を隠せないでいる。それに気が付いたのか、野木くんは言葉を続ける。
「可愛いって知ってるの俺だけで良かったなと、思ってたんだ」
動揺した心がまた心拍数を上げていく。
「の、野木くんてやっぱりタラシの才能あるよねぇ、、、」
しかも『俺』呼びしてた。やっぱり猫かぶってた感じかな?
少しづつ彼のことが知れていくことがこんなにも楽しくて、心地よい時間なんだと初めて知った。
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