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京橋に来た。孝蔵は相談をすることにした。東二という小者の仲間がいた。
「おめでとうございやす」孝蔵はあいさつをした。
「何だ孝蔵」と東二は答えた。孝蔵の紋付羽織姿を見て少し驚いたようであった。
「実は悩んでいます」
「何事か?」
「十手をなくしてしまい」
「それがどうした」
「よく十手は大事だからと言われますよね」
「でもそれで悩むことはないぞ」
「そうですか?」
「そうだ」
「実はあたしは小者が生きがいになってきまして」
「面白いことを言うな」
「へえ」
「大丈夫だから」
「いいのでしょうか?」
「いい」
「それではあたしは帰ることにしましょうか?」
「酒でもいかんか」
「いいですか?」孝蔵はたずねた。
「いいかな。まあいっぱいやっていけよ」
「ありがとうございます」孝蔵は東二の部屋に上がり込んだ。東二のかみさんが酒の入っているらしい徳利を持ってきた。
「おめでとうございます」と東二の妻は言った。
「これはどうも」孝蔵は頬がゆるんだ。酒を飲むと喉からかっとなってきた。孝蔵の生きがいをなくすことは回避できた、と彼自身は思っていたのだ。
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