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「十手をなくしたくらいで怖がることないぞ」東二は酒を進めながら孝蔵に言ったのだった。
「はい」孝蔵は答えたのだ。「おせち料理を肴にするか」と東二が言うと彼のかみさんがおせち料理を運んできた。
孝蔵ははじめのうちは遠慮がちに酒をやっていたがだんだん酒の酔いが回ってきたのかよくわからなくなってきたのであった。
「これが酒に酔うということですかね」と彼は言った。
「酔ってきたのか?」東二はほほえんでいるようでもあったが困ったような顔にも見えた。だんだん気持ちよくなってきた、これがいい塩梅というものなのだろうか、と孝蔵は思わず畳の上に横になってしまったのであった。
気が付くと孝蔵は寝ていたのである。「いけね」と目を覚ましてみるとどうやら東二の部屋の中にいるようなので、孝蔵は目を開けたのだった。「これはすまない」と孝蔵は起き上がったが体が重かった。
「無理するな」と東二は言った。
「泊まっていくか?」と東二に言われて孝蔵は首を振った。
「いいのだぞ。泊まっても」と東二は言うが孝蔵は「じゃましちゃいけない」と部屋から出た。
外は冷えたが酒のおかげで体は少し暖かくなっていた。「じゃまじゃないぞ」と東二は引き止めるが、「それでは」と孝蔵は道を歩きだした。
「暮六つ(午後六時頃)だからな」と東二は親切に時刻を教えてくれた。
「東二はやさしいな」と歩きはじめてから孝蔵は一人でつぶやいた。孝蔵は一人で家を目指したがどうもおかしい。さっきから同じところをぐるぐる回っているような気がする。人通りの少ないような気もした。
仕方ないとそこでたばこを一服した。同じ道を行ったり来たりしていたらしかった。どうやら酔ってしまったらしいのか、または狐つきか何か知らないが彼はおかしかった。やっと頭の中がすっきりとして道を歩く気力が出てきた。
孝蔵は道をどんどん進んだ。道を進んで行くと気は付くと孝蔵の家の前にいた。
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