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そのころから岡っ引きが襲われるということが起きはじめた。夜一人で小者が歩いていると襲われるのだった。真っ暗闇で何も見えないのにかかわらずに小者だけを襲うという犯人が出た。小者たちは夜一人で歩きにくかった。その上孝蔵は十手を持っていないのだった。小者と呼べるのかと彼はそんなことを愚痴っていた。小者を何だと思っているのだ、と彼は不満だった。
「仕事は湯屋だけでないからな」と道を行ながら彼は少し自慢げに一人で言っていたが誰も聞いていないような気がした。
彼はわざと咳をして道を行った。恭一のところに行って小者が襲われることについて話そうとしていた。
「これはどうも」孝蔵は恭一に声をかけた。
「何だ孝蔵か」
「最近小者が襲われるということが起きていますが」
「そうらしいな」
「けしからん」
「そう思うか?」
「思います」
「孝蔵も小者が板についてきたな」
「これはどうも」
「十手は用意してやる」
「本当ですか?」
「すでにここにある」
孝蔵は恭一に十手をわたされた。
「ありがとうごぜえます」
「今度から気をつけろよ」
「へえ」
「小者をいじめるというのはなにものなのか」
「あっしにはわからないことです」
「わしにもわからないな」
「ここらで一寸休みがとりたくなってきましたよ」
「怠け者なんて言ってられないな。わしも休みたいな」
「若年寄なんて超えてらっしゃるから」
「そうか」
「あっしも年取ってからが楽しみでもあり、怖くもありますよ」
「最近は世の中何だかおかしいな」
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