オニーサン。オニーサン。

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オニーサン。オニーサン。

 家に帰ってリビングに行くと、部屋にはあかりがついていなくて、中央にあるゆったりした長ソファの下にお兄さんが横たわっていた。  よく見るとお兄さんは死んでいた。  息をしていない。死んでいる。    お母さんに電話した。お兄さんが死んでいますと伝えた。  お母さんは 「よしきた」  と張りのいい声で電話を切った。  十分後、お母さんは大きなシャベルを持って僕の妹と一緒にやってきた。僕はびっくり仰天して 「埋めちゃうの?」  と聞くとお母さんは 「そうだね、今すぐにでも」  とシャベルを振り振り元気よくわらった。  妹も軍手をして、よしやるぞとガッツポーズをしている。 「どこに埋めるの」  聞くと 「庭だよ」  とお母さんは窓を指さした。  お母さんはさっそくお兄さんの死体を庭へ運ぼうとしたけれど、僕はまだお兄さんと一緒にいたかったので 「もう少しこのままで」  とお願いをしたらお母さんはにっこりわらって 「よしきた」  とシャベルを放り投げてエプロンを身に着け言った。 「あんたらはテレビでも見てなさい」  だから僕と妹はソファに座って好きなアニメを見だした。足元にはお兄さんの死体が横たわっていた。  僕はテレビアニメがCMに入ると、CMを見るのは退屈だから、足元にあるお兄さんを見下ろした。お兄さんの死に顔を見下ろした。  まつ毛は針金のように固くなっていて  肌なんてロウで固めたみたいにツルツルで青白い人形みたいで  目は薄く開いていて、だけど開いているように見えなくて  よく見ないとうっすら開いているなんてわからなくて  開いた口はからからにかわいたピンク色で  そこからのぞく歯は白い貝殻をきれいに並べたみたいに美しかった。  CMが終わると、アニメの続きではなく、僕の家のリビングが映し出された。薄暗いリビングではお兄さんが苦し気にもがいていて、それを僕と妹が取り押さえていて、お母さんがお兄さんの首に両手を巻き付けぎゅーって締め上げていた。  お兄さんのうめき声に、テレビはプツンと切れた。  まっくらな画面に目を下にそらすと、死んだはずのお兄さんの目がはっきりひらいていて、僕をにらみつけていた。 僕はそこで目が覚めた。 お兄さんが僕の顔を見下ろしている。 おはようって笑った。 お兄さんが死んだのは夢の中でのできごとだったけれど 何十年経った今でも、 僕はときどき 死んではいないはずのお兄さんの死に顔を思い出す。
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