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◆
一日中考えて、梓は決めた。
「全部自分で食べちゃおう」
それが一番平和だ。うん。……ちょっと量が多いけど。
無理やり自分を納得させ、学校から帰宅。荷物を置くとすぐに外に出かけた。
向かう先は水龍神の池だった。
今日もほとりには誰もいない。清らかな空気と、木立の葉が揺れる音だけが存在する静かな空間だった。
梓は適当な木の根元に腰を下ろすと、袋の中からノートを取り出した。
「さて……」
古びた表紙を指でなぞる。『宮瀬燈子(とうこ)』――羽鳥の祖母の名前が記されていた。
さっそく調べようと、一冊借りてきてみた。慎重な手つきで梓はノートの表紙を開く。日に焼けたページと流麗な文字が梓を過去へといざなった。
しばらく日常の風景が続いた。最低限の言葉で構成された、淡白で簡潔な文章。まるで報告書でも読んでいるかのような心地になる。
羽鳥に少し似ているかも。梓はくすりと笑いをもらした。
木立の葉が揺れる音に耳を傾けながら、次へ、次へとページをめくっていった。
手を止めたのは残り半分あたりに差し掛かったころだった。
求めていた単語が目に入り、梓は視線を日付へと滑らせる。七年前を示していた。
『災厄、三体現れる。ここ数年で確実に増えてきている。
この地の存在は様々に影響を及ぼす。良くも悪くも。そう遠くない未来、この地は強い負の感情に脅かされ、必然として訪れる避けようのない危機を迎えることだろう。それは私たちが支払わなければならない代償である』
羽鳥が聞いたという言葉は、このことか。
筆跡に目を落とす。梓はううん、とうなった。
強い負の感情が水上を脅かす、というのは羽鳥が言っていた通りだ。きっと災厄の多発しているこの状況が関係している。でも。
「代償……?」
その言葉が引っかかる。そしてもう一度文章全体を読み直し、ようやく見えた。鳥肌が立った。
水上は強い負の感情を抱かせるほどの『なにか』の上に存在しているのではないか。
その『なにか』の正体を羽鳥の祖母はおそらく知っていたのだろう。
梓はさらにページをめくった。他にもなにか書いていないだろうか。
『羽鳥が泣きながら帰宅。なにごとかと思えば、体育の短距離走でクラスメイトに負けたのが悔しかったらしい』
えぇー……。
思いがけずほのぼのエピソードが飛び出してきて、梓は思わず脱力した。
あいつ見かけによらず泣き虫だったのか。なんだか普通の子供っぽいぞ。微妙に失礼な気がするが、ついそんな感想を抱いてしまう。
「ん……続きがあった」
『その後結界の修復のため羽鳥と共に祠を回る。南側の消耗が激しい。外からの穢れが集中しているようだ。鳴弦を行うことにする』
鳴弦ってなんだろう。これはあとで羽鳥にでも聞いてみよう。それよりも気になったのは――。
「南、か……広いなぁ」
梓の元いた町だってここから南に位置している。ただ一言では広すぎた。
でも、これは重要な手掛かりになるかもしれない。梓は頭の中にメモをして、またページをめくる。そのまま黙々と読み進めた。
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