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◆  夕食のあと、梓は羽鳥の部屋を訪れた。借りていた日記と、天道製菓の紙袋とともに。 「お前、それは俺に対するいやがらせか?」 「ただのお菓子でしょ。大量にあるから、消化に付き合ってよ。お茶もちゃんと持ってきたから」  実際一人では持て余す量だ。梓が持ってきたお盆の上の茶器を見せつけると、羽鳥はため息をついた。 「日記の件のついでだからな」  なんとか部屋に入れてもらい、机の上を片付けて茶器を並べる。  聡にもらった菓子もいくつか並べてみた。赤と白の見覚えのあるパッケージ……と思いきや、黄色と紫色のパッケージが紙袋から登場。 「地域限定・サツマイモ味」  羽鳥が淡々と読み上げる。  だからそんな難しい顔しなくても。梓の心中などお構いなしに、羽鳥は箱の封を開けた。 「で、日記は?」 「あ、ええと……」  梓も菓子に手を伸ばしながら、夕方に読んだ日記の内容を思い出した。  七年前に増え始めた災厄。宮瀬燈子――羽鳥の祖母が書いた『代償』という言葉。  すべてを伝えると、羽鳥は一口茶をすすって、腕を組んだ。 「七年前、覚えてる。確かにおばあちゃんと一緒に南の祠に行った。たしかに変だとは思ったんだ。なんで南側だけ鳴弦をしたのか。おばあちゃんはその頃からなにかに気がついていたんだな」 「ねえ、その、鳴弦ってなに」  さっきからそれが引っかかって話が入ってこない。梓がおずおずと声をあげると、羽鳥の視線が向く。  お前そんなことも知らないのか。視線がそう語っていた。  悪かったですね、不勉強で! っていうか普通知らないってば!  文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、それより早く羽鳥が口を開いた。 「邪気祓いの一つだ。矢を使わず、弓を引く。その時に鳴る音で穢れを祓う方法だ」 「祓の力とは違うの?」 「鳴弦は一時的に寄せ付けなくすることはできるが、災厄を浄化するほどの力はない。まあ、おばあちゃんは弓を引くときに力を少し乗せてたみたいだけど」  羽鳥は茶器を置くと、自分の右手にじっと視線を落とした。 「一番おばあちゃんの得意としてた術だ」  なるほど、と梓はうなずき、心のメモ帳に書き留めた。合間に菓子に手を伸ばす。……あ、これ結構美味しいかも。 「……話を戻す。やっぱり鍵は南側か」 「日記には『そう遠くない未来、この地は強い負の感情に脅かされ』って書いてあったんだけど、見当つく?」 「いや、正直分からない。ただ、負の感情を持った人が災厄を動かしている――この日記の書き方からすると、そういうことなのかもしれない」  宮瀬家の跡取りである羽鳥も知らないとは。梓は肩を落とした。  当時の羽鳥が幼かったこともあるのだろう。羽鳥の祖母は全てを自分の中に秘めて、いなくなってしまったのかもしれない。  いや、もしかしたら昇にはなにか言っているかも――。  昇に聞いてみよう。そう提案しようと梓は口を開きかけた。 「むしろお前はどう思うんだ?」 「……は?」  しかし、羽鳥の言葉に封じられ、セリフは喉の奥へと引っ込む。代わりに出てきたのは間抜けな声だった。
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