理想郷のパズル

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 ***  一万もあるピースを、土砂や瓦礫の中から発掘し、しかもそれを巨大な台座の上で並べてパズルとして完成させる。それはまりにも気が遠くなるような、途方もない作業だった。  しかし作業を続けるうちに、私は少しずつ理解したのである。私の目の前に現れたエミナール星人は有情だった。よほど、この惑星の人類が滅ぶのを避けたかったのだろう、ということが。  確かにハードなミッションではある。しかし、よくよく考えてみればその意図も見えてくるといものだ。パズルが何故、水で洗うだけで綺麗になるのか。全く錆びていないのか。一万もの数のわりに、わりと浅い階層で次々と発掘が進むのか。そして、九月というココット遺跡で発掘するのに最も快適な時期(乾季かつ、冷暖房がなくても快適に作業ができる一番丁度良い時期であったのだ)を選んだのか。  それから、様々な言語を駆使しなければ入れない場所、解けないギミック。この遺跡は外側こそ古いものの、中で見つかるものが存外劣化していないので不思議だとは思っていたのだ。恐らく、こんな時のためにわりと“最近”地球をこっそり訪れたエミナール人がセッティングしていったのだろう。  全ては、私達に大切なことを思い出させるために。 ――日本人も、他の国の人々も。みんなお互いの国の利益ばかりを優先させて環境を蔑ろにしたり……よその国の悪口を言っていがみあうことが少なくない。  戦争なんて大きな禍いにならなかったとしても。国、性別、人種などなどで差別し、トラブルになることのなんと多いことか。SNS一つ取ってもそう。何か都合が悪いことがあると●●人のせいだ、●●は障害者に決まってる!なんて言葉が飛び出すことも少なくない。  レッテルは、それぞれの個性を塗りつぶして簡単に踏み潰してしまう。  私は教授や日本人である以前に“松江吾郎(まつえごろう)”という一人の人間であり、日本人のテンプレに入らないような行動もたくさんする。そもそもそういったテンプレという認識が間違っていることさえある。他の人も同じ。そんなこと、誰もが本当はわかっているはずだというのに。 「よし、今日からは本格的に組み立てを始めるぞ……!」  約一万個揃った、そう判断したところで発掘を中断し、全員でピースを組み立てる作業に入った。  細かなところに気づくのはドイツ人のツェーザルが上手かった。ロシア人のイヴァンは手先が器用であったし、皆が思い悩んだ時に意外な発想をしてくれるのはアメリカ人のクラリスだった。
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