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スペイン人のボニファシオはジョークが上手くて皆をなごませるのに一役買ってくれたし、イタリア人のラウロが作ってくれる昼ごはんは絶品だった。
中国人の宇春は非常に真面目にコツコツと作業してくれたし、韓国人のメイヒは気配りがとても上手かった。イギリス人のアントンは、力持ちでみんなの荷物を運ぶのを積極的に手伝ってくれたし、フランス人のファビアンはとても博識だった。
自分が選んだ最高の仲間達は、みんなそれぞれの国の良さと、彼等個人の良さを併せ持っている。少しずつ、少しずつではあるが作業は進んでいき、やがて中央部分の空きを僅かに残すばかりとなったのだった。
――残り一時間を切った……もう発掘している時間はない!どうか、ピースが足りますように……!
私は祈るような気持ちで、残った最後のピースを嵌めていく。ドキドキ、なんて甘ったるいものではない。緊張しすぎて、汗で手が滑るほどだった。この手に、人類の命運がかかっているのだから。
自分達は、やるべきことをやったはずだった。
国境を越えて、人々は協力しあえることを、人類にはまだ可能性あがることを示すことができたはずだ。あとは、パズルを完成させて証拠を見せれば終わるはず。
「あと、一つ……!」
残り、数分。
祈るような気持ちで私は、最後のピースを嵌めた。
カチリ。
「!」
次の瞬間。パズルがキラキラと輝き始める。そして、つなぎ目が全て消失し、一枚の美しい絵になったのだった。
それは、この世界から失われた理想郷の姿。
既に現実では自然の植物が殆ど生えなくなった大地に、一本の林檎の木が育ち、鮮やかな緑色の枝を付けている。
その向こうには、リアルではドス黒く汚れてしまった海が、青々とした美しい姿を取り戻している。
林檎の木の回りでは兵士は銃を置き、二人の老婆が肩を寄せ合って笑い合い、小さな子供達は少し隣の土に新たな苗を植えている。
少年二人は喜びのキスをして、黒人女性と白人男性が嬉しそうにハグをしている。
そして、今はもう灰色ばかりが見えるはずの空も。柄の中では青く澄み渡り、円い虹がかかっているのだ。
「ああ」
彰祐が、泣きそうな声で言った。
「現実でも、見たいな。……この景色」
「ああ。……その通りだ」
男も女も、老いも若いも、国境も人種もなく。絵を取り囲み、私達は頷き合ったのである。
理想郷を、理想郷で終わらせない。
現実のパズルを組み立てるのは、これからだ。
「取り戻そう、もう一度」
やり直すのだ。もういっかい、ここから。
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