人はそれを運命と呼ぶのだろう

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「おはよう。今日は朝から講義だろう? 早く食べて支度しないと」 「うん。今日は講義が終わったら友達と遊びに行くから、ちょっと遅くなる」  手早く顔を洗い、いただきます、と手を合わせてからパクパクと朝食を食べる妹に頷きながら、和仁も箸を手に取った。 「わかった。楽しんでおいで。でも、もしもがあったら大変だから、ちゃんと抑制剤を持って行くんだよ」  いつものように言えば、わかってるわかってる、と媛香が少し煩わしそうに何度も頷いた。彼女とてもう二十歳を超えたのだからもう口うるさく言われたくないのだろうと和仁もわかってはいるのだが、どうしても心配で毎度注意してしまう。そんな和仁にこれ以上あれこれ言われたくないのだろう媛香は米と目玉焼きをかきこむとお茶で流し込み、さっさと立ち上がって自分の部屋へと戻っていった。おそらく着替えや化粧など身支度をするのだろう。  それからバタバタと慌ただしく身支度をして、いってきますと声だけをかけながら振り返ることすらせずアパートを出る妹に苦笑を零し、和仁は洗い物を済ませるとそのまま座布団を枕に横たわった。すぐに睡魔が襲ってきて、身体がひどく重く沈んでいく。  和仁に許される睡眠はさほど長くはない。少し眠ったら起きて、またアルバイトに行かなければならないのだ。母が亡くなってから、生きるための金を稼いでいたのは和仁だった。中学を卒業してから進学せずに働きだした和仁はより多く短期間で稼ぐために幾つものアルバイトを掛け持ちをしている。そうしなければ何かと金のかかる自分と妹を養うことはできない。  金を稼ぐために時間は少しも無駄にはできなかった。それに妹も成人を超えたから、もうさほど猶予はないと考えた方が良いだろう。その時が来るまでに少しでも多くの金を稼ぐ必要があった。  その為に働いて働いて、それ以外の何かを考える余裕など、今の和仁にはなかった。
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