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人類の観測開始以来初めて、その砂漠に雨が降った。少なくとも過去百年は水を受けたことのない大地に水溜りができた。世界中で百年に一度だと話題になった。どこかの大学の教授はニュースで、地球温暖化の影響で上空の雲の動きが変わったことによる異常気象だと言った。砂漠の民は予期せぬ贈り物に喜びと、不気味さを感じた。
百年ぶりの雨をばら撒いた雲は、一日でどこかに吹かれていった。世界の関心は南国の噴火と石油の高騰に移った。気象学者の興味すらも噴火に移っていた。砂漠に残ったのは地元民の感覚的な心配だけだった。
雨が降った五日後、砂漠に異変が起きた。草一本生えていなかった砂色の地面に緑が点在していた。現地人は植物の成長について疎かった。いよいよ不安は強くなった。彼らの中の一番の長老ですら、砂色の地面しか知らなかった。噂はすぐに広がった。噂を聞いて町の人は、砂の中にあった種が雨が降って発芽したのだと気づいた。好奇心旺盛な町人はその光景を見にいった。だが、物知りな彼らも何の植物かまではわからなかった。百年の雨で珍しい植物が目覚めた、という噂は高名な植物学者達の耳にも入った。百年前の種の発芽は彼らの興味を惹くに十分なほど面白いテーマであった。学者は芽が枯れないうちに、と急いで砂漠に飛んだ。彼らの行動は早かったが、いかんせん噂の伝わりが遅かった。着いた頃には大方枯れてしまっていた。砂漠は水持ちが悪い。学者達は仕方なく枯れた草を持って各々帰っていった。
帰った彼らはそれぞれの草を研究した。どうやらDNAを調べるとセリなんかに近いようだった。しかし合致する植物はどこのデータにも無かった。新種の様だった。それがわかると彼らは蜻蛉返りで砂漠に戻り、生き残っているものか、種子がないかと血眼になって探した。結果、とっくに駄目になっている種子だけが、いくつも見つかった。どうにかして発芽させようとしたが、全て失敗に終わった。
新種の植物が見つかったのに、新発見と同時に絶滅したという事実は学者連中をひどく落胆させた。だが、一部の学者は新種説を否定した。あれはシルフィウムだったのだと言った。今となっては事の真偽を確かめる術も無い。砂漠の民の中には、芽の生えた所からは、何やらいい香りがしたと言った者もいた。
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