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1.理想の人生
「美奈、明日もエステとやらで朝早いんだろ? そろそろ寝なさい」
いよいよ明後日は娘の結婚式。美奈は「はぁい」と言いつつまだテレビを見ている。
「それにしても楽しみだわ。あのウェディングドレス、美奈にとっても似合っていたもの。ね、お父さん」
「ああ、そうだな」
私と妻の言葉に美奈はくるりと振り向き笑みを浮かべた。
「うん、私も気に入ってる。父さんの言うとおりレンタルは止めてよかったよ。一生に一度しか着ないからもったいないかなとも思ったんだけど、自分のためだけのドレスって思うと嬉しいもん」
レンタルドレスで済ませば安いからという娘の言葉に私と妻はせっかくだからとセミオーダーのウェディングドレスを勧めた。
「父さんはどうにも借り物ってのが好きじゃなくてな。他人が袖を通したドレスより新品の方がいいだろ。お前に娘が産まれたら譲ってもいいわけだし」
それは素敵ね、と妻が両手をポンと打合せる。ひとり娘の美奈にはどうも甘くなってしまうがそれはそれでいいと思う。今や私も部長となり金銭的に余裕もある。親としてやれるだけのことはしてやりたい。
笑顔の妻と娘を目にし、ふと自分の人生を振り返る。気立てのいい妻に少し生意気だがそこもまた可愛い娘。我ながらここまで理想的な人生を歩んできたように思う。運命の女神はいつも私に微笑んでくれていた。このまま女神様のご機嫌を損ねないよう人生を歩んでいこうじゃないか。私は最近少し白髪の増えてきた妻の後ろ姿を見ながら、たまには二人で旅行にでも行こうかなどと考えつつコップに残ったビールを飲み干した。
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