悪魔ドーナツがあざ笑う、ダイエットストーリー ―ある夫婦の愛のカタチ―

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 昼休み職場の女子社員達が賑やかにベンチを囲む姿にふと視線を向けると、彼女達はドーナツを手に口にするのを躊躇(ちゅうちょ)している。 その可笑しげな光景を見つめる姿に気が付いたのか、菓子箱を手に女性社員が駆け寄って来た。 「武田さんも一つ如何ですか? 悪魔ドーナツ」 「えっ」 パッケージに綴られた悪魔の文字に思わず手が止まる。 「これ、カロリー悪魔級のヤバイやつなんですよ」  厚生労働省が示す成人女性一日当たりの推定摂取カロリーは、普通体型で約二千キロカロリーが必要とされる。なんと目の前にある小さなドーナツはたった一つでその半分以上を摂取させる悪魔級のドーナツなのだ。 「世の中ダイエットを皆気にされるんですが、逆にやせ型体質の方が太りたい思いで最近人気のドーナツなんですよ。ハイカロリーなナッツ類が生地にも練り込まれていて、濃厚チーズに生クリーム、これって罪ですよねっ。でも、武田さんならスタイルいいから無敵ですよ」  冷や汗をかきながらも折角差し出された好意を無駄にしない様に手にしたドーナツを一口かじる。 濃厚な深みのある味わい、しかし意外にも癖を感じる事は無く簡単に食べてしまう恐ろしさ。千キロカロリーの罪悪感からか、ふと心美の顔が浮かび申し訳なさが込み上げていた。
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