悪魔ドーナツがあざ笑う、ダイエットストーリー ―ある夫婦の愛のカタチ―

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 どんなダイエット方法を行っていても必ず訪れるのは、停滞期と称される女性達の心を簡単に折り曲げてしまう時期だ。  仕事帰りに西城に連絡し再び今後の助言を受ける。 どれだけスローペースなダイエットを心がけていた心美にも、当然その時期は訪れ西城はココが痩せるかリバウンドするかの運命の分かれ道だと告げる。  停滞を見せ始めた体型と体重の数値。西城の美容クリニックではこの時期に面談の頻度を増やし特別室へと女性をエスコートするらしく、その室内に設置された壁一面の鏡には特殊な凹凸により鏡面が加工されていた。 「どうだ、驚いただろ?」  僅か六帖程の細長い空間。人間の平均歩幅である約八十センチに歩幅を合わせ、部屋の奥へと歩む都度、壁面に設置された鏡の凹凸は変化してゆき自らの鏡に映る姿が痩せて見えてゆく。 「奥へと歩む都度、マイナス約三パーセントのダイエットに成功した時の未来の姿に変化する。まっ、一番奥に辿り着いた時はパリコレモデル並みへと変貌するがな」  部屋の一番奥に用意された高級ブランドチョコレート。この部屋に訪れた多くの患者はそのチョコを口にすることは無いという。ダイエット停滞期に陥った女性達の強い意志をここで再認識させる目的と、施術による全身美容整形を施した際の体型の変化のイメージを掴むために利用している。そう告げた入口に佇む彼の元へと戻るにつれて、か細い体型は徐々に肥大化する。 「あぁ……」  武田の表情の変化を合図に、西城は得意げに言葉を添えた。 「これが体感できるリバウンドの恐怖さ」  鏡に映る自らの姿、先程とは相反し現実の体型へと徐々に戻りゆき、最後に入口扉の裏面に設置された鏡により、現状よりも二十パーセント太った自らの姿を映し出した。 「パチンッ」  指先を鳴らし西城は声を高らかに告げる。 「停滞期、ここで九割の女性が挫折する」  何十年もの間――、 現在に至るまで、消える事無くダイエット関連のビジネスが成功する本質を垣間見た瞬間だった。
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