悪魔ドーナツがあざ笑う、ダイエットストーリー ―ある夫婦の愛のカタチ―

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 診察室に響き渡る西城の笑い声。その声は悪意あるものではなく、親しみさえも感じさせる。 「驚いたよ、美容クリニックってこんなアトラクションになってるのか?」 「はははっ。差別化だよ。今の時代お客様は一人の患者じゃない。その考え方はもう古い。この業界で勝ち抜くためには、患者ではなく一人のゲストとして扱う。特に美意識の高い女性は皆、特別扱いを受けたい。それは美を手にした彼女達にとっては当然なんだ。僕はそれに百二十パーセント応える」  大学時代、苦学生だった彼の面影はもうここにはない。五感を最大限に利用しゲストを迎え入れる美容業界を一つのエンターテインメント化した医師の姿がそこにはあった。 『今の自分にはそんな彼が眩しすぎた』 「それより大変だったな。勤め先の商社倒産だって」 「あぁ……。でも、ようやく落ち着いたよ。輸入していた医療器具の卸先の会社で、規模は小さいが何とか生活は出来てる。給料は半分以下になったけど、ストレスも半分以下だから楽しくやってるよ」 「そうか。でも、もし力になれる事があったら言ってよ。協力する」  新聞一面を賑わせた一部上場商社の企業倒産。西城は職に困り訪ねて来たのだろうと察していたのか、想定外の武田の返答に微かに瞳を見開いていた。 「で、今日はどうした? 四十を過ぎて、学生時代と何ら変化の無いスタイルを維持、歳は重ねたがくっきり二重のイケメン顔は健在、そんなお前がウチを利用してくれるとは思わない。それとも、若い愛人でも作ったのか? 心美(ここみ)ちゃんに言いつけるぞ、学生時代の恋敵に協力は出来ない。なんてなっ」  冗談交じりにそう語る西城に差し出した携帯画面。そこには、当時、二人で奪い合ったクラスのマドンナの面影は消えた心美が写る。 「……、 ……、 これ……、彼女か??」
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