悪魔ドーナツがあざ笑う、ダイエットストーリー ―ある夫婦の愛のカタチ―

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 西城は医師の真剣な眼差しで画面を目にしながら脂肪吸引、メスを入れ弛みが残る皮膚表面処置――、様々な施術をイメージしているのだろう。その姿を目に、武田は更に彼の想定外の言葉を伝える。 「実は、今日相談に来たのは、お前の技術に頼るためじゃないんだ」  その言葉を耳に西城は顔をあげた。 「初めはそう思った。でも、医療の力を借りずに彼女の意志でダイエットをさせたくて……」 「金のことか? 確かに施術や維持管理には巨額の費用は掛かる。でも、心配するな。可能な限り協力する」 「いや、違うんだ!」  武田のその言葉に驚きの表情を浮かべながらも、西城は口元を緩め静かに聞き入れようと組んだ足を解く。 「きっと、原因は俺なんだ――」  雑誌やネットで西城の成功を目にした心美は心の何処かで、学生時代の選択を間違った。もしかするとそんな想いがあるのかも知れない。仕事に追われる日々の中、ずっと寂しい想いをさせていた事実と、なんでも美味しそうにたくさん食べる姿が好きで、高カロリーなデザートもよく買って帰っていた。 「そんな長い蓄積が、今の彼女に――」  西城は何度も頷きながらも武田の見解に言葉を添える。 「確かに、お前が精神的ストレスを彼女に与えていた覚えがあるのなら、それは要因の一つだろう。しかし、理由はそれだけじゃない。医学的に肥満には、主に二つのタイプがあって、皮下脂肪型と内臓脂肪型肥満だ。彼女は見事に全てを手にしているだろう」  不規則、不摂生、過剰な心配事やストレス、暴飲暴食、運動不足など理由は様々。互いに年齢を重ね基礎代謝が低下している事にも目を背けてはいけないとも語る。 「肥満型の体型を気にしてか外出も減り、衣類は全て通販サイト。益々悪化しているんだ。今の彼女はここには絶対来ない」  全身施術の場合、当然ながら裸体を露わにする。自らの変わり果てたその姿を、過去に求愛を求めて来た男に見せることは、恥を晒すマイナスな要素を強く持つ。武田が語らずとも、西城はそう理解しているのだろう。決して無理に診察すると告げることはなかった。 「(ガン)、糖尿病、動脈硬化――、挙げればきりがない程、肥満が原因の成人病は多い。年齢的にも結果が出やすい最後のチャンスかも知れないな。長い時間をかけて蓄積した脂肪だ、時間は掛かるが二人で協力すればきっと痩せれる。大切なのは、必要以上のカロリー摂取を如何に制限するかだ」  武田の相談を受け、医学的な観点の助言並びに栄養士による無理のないダイエットの食事バランス、高代謝サポートのサプリメントなど様々な協力を惜しみなく伝授してくれた後、西城は厳しい表情で言葉を掛ける。 「自己努力で痩せる事が出来ても、年齢的なシワや、ダイエット効果による残物の皮膚のたるみ、最後の処置には是非協力させてくれ。それと、美容医療を頼らずに自己でのダイエットは相当過酷なものだぞ。彼女一人じゃ百パーセント無理だ。断言してもいい。一度肥満化した女性のリバウンド率は想像以上だ。 お前のように家族の協力者が必要、それも間違いのない事実だが――、 ……、 最後に勝敗を決めるのは、第三者ではなく、 本気で痩せたいと願うだ。 ダイエットの方程式、 その隠された答えはただ一つ、 それを、彼女にことだ――、 ダイエットを舐めるな」
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