悪魔ドーナツがあざ笑う、ダイエットストーリー ―ある夫婦の愛のカタチ―

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 少しずつ――、 この言葉が、継続するために必要だと西城は念を押していた。 次に彼が告げた第二段階は、継続した運動により代謝を上げる事だった。  自らの体型、肥満が増すにつれ外出は最低限となり運動など無縁の世界。そんな彼女に意識をさせずに運動などどうやってさせると言うのだ。  そんな不安を抱く中、西城は一つ忠告をしていた。 「優斗、お前は優しすぎる。相手を想いすぎたその結果が今の彼女だ」  をする。それが、堕落した彼女に運動させる唯一の方法。  洗濯を終え綺麗にアイロンされたワイシャツをクシャクシャに、履いていない靴下、着てもいないTシャツも合わせ洗濯籠へと入れる。外回りの仕事が増え、社内で一度着替えると嘘の言葉を並べ増加した家事、無意味に幾つもグラスを使いシンクへとそっと置く。これまで性格上几帳面に整理していたリビング、寝室もワザと乱雑にする。  時折不審がる心美の表情を目にした時は、日中の外回りで疲労が溜まっている様子を装い寝たフリを繰返す。男性には分からないが、日常繰り返される家事に使う体力はかなりの重労働となる。たかだか靴下一つとっても、再び収納タンスに戻る頃には様々な動作を促すことになる。幸い家事においてはいつ来客が来てもおかしくない程に彼女は取り組んでくれていた。  少しずつ――、 西城の言葉を常に意識しながら、時折慌てた様子で自宅へと入れた連絡。 それは、仕事に関わる重要な書類を、ワザと忘れ駅まで届けさせる。 慌てて最寄り駅まで駆け付け届けてくれた彼女の背中を見送りながら、そっと心の中で『ごめんね』と呟き、必要のない書類を鞄へとしまう。  これまで家庭の事は全て彼女に任せていた、いつしかその時間の中に、郵便局への荷物出し、銀行、実店舗限定販売の商品購入など、優斗の用事が自然に組み込まれてゆくことになり、休日には、仕事用のネクタイを選んで欲しいと極力外出を促し、野菜中心のレストランを敢えて予約し接種カロリーを控えさせる。
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