13人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
「ではこれにて、貴方とのセッションは最後となります」
「量子コンピュータ・ゼン。私は私の成すべき事を必ずやり遂げよう」
二つの無機質さと有機質さを合わせ持つ声が重なる。
片や生体部品を組み込んだ機械。
もう一方は未来を勝ち取る為に訓練を重ねて来た少年。
互いがもう会えなくなると知るからこそ、どちらもが別れの言葉を共に紡ぎ出す。
『多様なより良い世界を』と。
多世界に渡る崩壊の兆しが再びの拡張を見せ、全ての世界を巻き込んで滅びの連鎖へと雪崩込むのを止める為の決意表明だった。
セシウムの魔術師と呼ばれ、世界を渡る能力を持つ者、イツセは未だ年端の行かぬ姿だ。
しかし、その表情は苦難の歴史を飲み込み、大人顔負けの精悍さがある。
今では訓練に因って、望めば自在に見えてしまう白昼夢の如き幻視。
数多の世界の可能性には、未来を閉ざす世界線が刻々と増えていた。
幻視を見ている間、イツセはシュレディンガーの猫の如く重ね合わせの存在と化す。
故に選び取り、望んだ時空へと渡れるのだ。
数多の世界の重ね合わせとなり、そこから選び取った未来へと。
失敗は、三千万回に一度以下。万に一つ以下の恐るべき精度。
最初のコメントを投稿しよう!