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 そして選挙の当日。  ヨンチョルはこの日、ベーカリーを臨時休業にして投票所である在日コリアンのコミュニティ・センターに赴く。もちろん、彼の妻のチュンヒに、成人している一人娘のヒスンも連れて来て、であった。  投票所に来てみると、韓国語の他にも英語や中国語・アラビア語・ベトナム語・ブラジルポルトガル語・タガログ語etc.etc.と、様々な言語が飛び交い、熱気にあふれている。それまで「日本国籍を有していない」という理由だけで、自分たちが選挙で政治家を選ぶという選択肢を認められなかった人々が、この日は一堂に会するのである。「投票所に屋台を出店してはいけない」というルールが存在しなかったら、宛らこの日は各国の人々により「縁日状態」「お祭り騒ぎ」となっていただろう。 (しかし、いざ投票となると、どの候補者に票を入れると良いか分からないなぁ…)  ヨンチョルは、他の外国人同様に登記所で固まってしまう。何しろ、これまで選挙とは無縁で「どうせ俺も俺の家族も、一生自分たちで政治家を選ぶことなんてないだろう」と、半ば諦めていた外国籍の人間である。そんな自分がいきなり「貴方がたにも選挙権・被選挙権を認めますよ」と、一方的に言われたとしても、戸惑うばかりなのである。 (まぁ、無難なところでは、自権党からの候補者かなぁ…?)  ヨンチョルは(極左政党・日本マルクス主義党なんかに投票したら、ネット右翼からどう攻撃されるか分かったモンじゃないぞ)と思い、圧倒的多数の日本人から支持されている自権党・並びに仏法守護党相乗り推薦の市長候補者の名前をハングルで記す。後ほどチュンヒとヒスンに聞いてみたところ、妻も娘も自権党推薦の候補者の名を記したという。
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