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「う~む...何だか六法全書のどこかに記載してあることに反している気もするが、とりあえず回答しよう」  ヨンチョルはそう呟くと、回答欄に返答を入力する。①は「大韓民国」・②は「中道より右寄り」、そして③は「自由民権党」である。この時、外国籍の有権者の誰もが調査会社のアンケートに対して正直に返答したことによって、後に在日外国人の誰もが災禍に晒されることとなるのも露知らずに…。  ヨンチョルが謎めいたウェブアンケートに回答して一週間後...。 「ホットクパンをご購入くださいましてカムサハムニダ!またのお越しを!」  普段と変わらない店内業務。アルバイトの朝鮮人学校の学生が快活な挨拶を交わす最中、点けっぱなしのラジオがこのようなアナウンスを行っていた↓。 『…次のニュースです。日本国内の選挙権・被選挙権のあり方に関しまして、大手調査会社が20XX年?月#日より三週間限定で外国人有権者を対象にウェブアンケートを行いました。その結果、アンケートに応えた外国人有権者の91.7%が与党自権党を支持していることが判明。今後の外国人選挙権の是非について、波紋を広げることとなる模様です…』  この報道を、ヨンチョルも店内にいたアルバイト学生も聞いてはいなかった。  ところが、たまたま店に買い物に来ていた日本人が、そのニュースを耳ざとく聞いていたのである。その日本人の有権者の男は、店主であるヨンチョルを睨みつける。ふと、何やら刺すような気配に気が付いたヨンチョルが、焼き上がりのジャムパンをショーケースに陳列する手を止めて見上げると、そこには憎悪を顔に露わにして彼を睨みつける男が。ヨンチョルは憎しみを隠そうともしないその顔にギョッとしたが、男は何も買わずにすぐさま店を出て行った。  翌日。  何時もの如く、ヨンチョルは他のベーカリーの例にもれず、早起きして店内でパンの仕込みを終えて、焼き立てのパンをショーケースに陳列した後に店の前の掃除をしようと外に出たところ、シャッターが原色で落書きをされているのに出くわす。   国家権力の手先は日本から出て行け!!!!  ヨンチョルは、突然目にとび込んできたこのどぎつい色遣いの落書きにギョッとする。顔面が蒼白となった彼は、(これがヘイトクライムなんだ!)と判断。そして手持ちのスマートフォンで「証拠写真」を撮影する。 (お...落ち着け、ヨンチョル。取り敢えず今日は店を臨時休業にして、市役所の「ヘイトスピーチ・ヘイトクライム被害相談窓口」に駆け込もう)  というわけで、店は大損失を被るものの、由々しき事態であるために彼はベーカリーを臨時休業してスマホで撮影した「ヘイトクライム証拠写真」を持参して市役所に駆け込むことにした。  朝食を摂った後、役場の始業時間を待って、ヨンチョルは早速市役所に向かう。妻と娘には、「証拠となるもの(=シャッターのヘイト落書き)を勝手に消されて証拠隠滅を図られない」ために、シャッターを上げておいてガラス張りのドアに「本日臨時休業」の貼り紙をしておくように、と言っておいた。  道中、彼は西鉄福岡天神駅の前の広場にて、幟旗を何本も立てて、何やら集会を開いている団体に出くわす。その幟旗には「外国人参政権は日本に要らない」「日本の政治は日本人が決める」「外国人参政権は内患誘致」と染め抜かれている。集会の中で、聴衆がマイクを持った男を凝視している。その男は、ヴォリュームを最大限にしてこのような演説を行っていた↓。 『(略)20XW年に「外国人参政権基本法」が衆参両院で可決され、翌年の20XX年、この法案は国民の同意など全く無視して制定されました。与党である自由民権党は国政を私物化するために、在日外国人に対して参政権という名のエサをちらつかせ、日本の恒久的な支配を盤石なものにする魂胆でいます。しかし!日本国憲法は「日本人」のための憲法であるはずです!外国人に参政権を与えるなどということは、正に外患誘致ならぬ「内患誘致」に他ならないのです!(略)』  その様子を目の当たりにしたヨンチョルは、気分が悪くなる。 (「参政権という名のエサ」だと...!?アイツら俺たちが野党に投票しなかったことが気に食わないって理由だけで、在日外国人の選挙権や被選挙権を取り上げようって肚なのか!!)  広場の集会を目の当たりにした彼は、自販機でペットボトルのコーヒーを飲んで気分を落ち着かせた後に猛烈な怒りに見舞われた。  ともあれ、ヨンチョルは福岡市役所の「ヘイトスピーチ・ヘイトクライム被害相談窓口」に被害届を提出した後に帰宅する。帰宅すると、店舗の脇の郵便受けに1枚の紙が挟まっていることにヨンチョルは気づく。 「何だろう?」  彼がその紙を広げてみると、そこには縦書きでこのように記されてあった。
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