恋慕う

1/1
前へ
 /1ページ
次へ

恋慕う

髪が舞った。 その瞬間に柔らかい花の匂いが鼻孔をくすぐった。 颯爽と歩く姿はただただ美しいと言うほかない。 それだけのことで、恋が芽生えた。 それから私は、毎日、彼女の姿を探した。 艶のある黒髪。クローバーのチャームが付いたネックレス。白のワンピースと3センチほどのヒールがあるパンプス。黒のバッグ。 服装なんて毎日変わるだろうに、同じ姿を探し続けた。 通学電車で見かけたのは、あの1回だけ。 私はいつもと同じ電車に乗っていたから、彼女が遅刻していたのかな。それともいつもより早い電車だったとか。 分からないけれど。 どうしても彼女にもう一度会いたい。 その願いが叶ったのは、彼女を初めて見かけてから、1か月が経った頃。 電車の中で、あの柔らかい花の香りがした。香水なのか、柔軟剤か、シャンプーか。すごく優しい香り。 目線だけで彼女の姿を探すと、すぐに見つかった。 艶のある黒髪。クローバーのチャームが付いたネックレス。水色のワンピースと、茶色のサンダル。黒のバッグ。 間違えるはずない。あの人だ。 顔を見たのは初めてだけど、絶対にあの時の彼女だと断言できる。 彼女の隣には、彼女に負けないくらい顔立ちの整った男性がいた。彼女と楽しそうに話をしている。 仕事の同僚? でも親密そう……。 恋人……とか。 話しかける話題もない私には、手の届かない高根の花。 それでも私は恋慕う。 遠くで眺めているだけでいい。私の心はトキメクから。 どうか、もう少し恋慕うままでいさせてください。 せめて、私がこの電車で学校に通う最後の日まで。

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加
広告非表示!エブリスタEXはこちら>>