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「はい」
静かに扉が30度開き、髪を後ろに束ね黒ぶちの眼鏡をかけた女性が伏し目がちに「お約束は頂いてますでしょうか?」と口先だけを動かして私に尋ねた。
「いえ、すみません。急に来てしまって……出直しましょうか?」
「あっ、飛び込みですね?」
台本の棒読みのような返事、でもセールスじゃないんだから飛び込みとは……。
奥から男性の声がした。
「取り敢えず入って頂きなさい」
低くて艶のある声だ。
「どうぞ」
扉が90度開き、私は中に通された。
「お話しだけになると思いますが、そちらへ」
その男性は正面の重厚な机から立ち上がりパーティションで仕切られた応接室の方に手を差しのべた。
スラッとした長身、小さい顔は目鼻口の配置も良く、差しのべた腕はスマートに長い。整い過ぎていて冷たさを感じた。
向かいに座り
「ご依頼内容は?」
「はい、彼氏を調べて欲しいんです」
そこにさっきの無表情な女性がお茶を運んで来た。そしてそのまま男性の横に座り、1本調子な語り口で女性が話しだした。
「彼氏の調査?つまり二股とかですか?」
すると男性が、
「あっ!失礼しました。まだ名刺もお渡ししていなかった」
ジャケットの内ポケットから真っ赤な名刺入れを出した。おまけにピンクのハートの留め具が付いている。
えっ?私は目を疑ったが平然と名刺を差し出された。
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