不要な感情、買い取ります

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 なんだ、この店は? 感情を買い取るのか? それともそういった名前の飲み屋か風俗なのか? これも何かの縁だ。中を覗いて本当に感情を買い取ってくれるなら、俺のこの無駄にたくさん芽生えて、俺の生活をぶっ壊している感情をいくらでも売ってやる。  薄暗い階段を上り、小さな扉が目に入る。ドアには、あなたの感情をお売りくださいという文字。  好奇心と不安が入り混じったような気持ちでドアノブを回した。    店内は思いのほか明るく、丸メガネに右がピンクで左がグリーンという奇抜な髪をした店員が、「いらっしゃいませ」とカウンターから声をかけてきた。  俺は曖昧に会釈して、店内を見渡すと六畳くらいの広さにカウンターとテーブルセットのみ。小さなテレビが灯されているだけの店内には、特に何の商品も置いていないようだ。 「あの、表の看板を」 「ああ、そうです。看板に書いてある通り、当店はお客様のする専門店です」  丸メガネの奇抜な髪の店員が、俺に椅子を勧めてきた。言われるがまま椅子に座ると、正面の席に丸メガネの店員が座った。 「お客様は、当店のご利用は初めてですよね。こちらがご案内になります」  そう言いながら、俺の目の前に一冊のファイルをひろげてきた。 「まず、当店が買い取りするのはお客様の感情になります。嬉しい、楽しい、悲しい、苦しいなど、それら感情のすべてが買い取り対象になります」  丸メガネの店員が、ファイルを指差しながら説明を始めた。
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