不要な感情、買い取ります

3/9
40人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「買い取らせていただく感情は、その買い取り額が変動します」 「その感情の質っていうのは、どうやって調べるんです?」 「そうですよね、そこは疑問に思いますよね」  笑顔を向けながら、引き出しからタブレットを取り出した。 「こちらのタブレットにいくつか質問が出てくるので、その回答をこのペンで書き込んでもらえば感情の質が分かるんですよ。解析方法なんかは企業秘密ですけれどね」  心のどこかで、SF映画に出てくるようなヘッドセットを装着されて、いろんな管をつけるのかと、内心ドキドキしていたが拍子抜けした。  改めてタブレットの画面を覗き込む。 設問1 あなたが人生で一番楽しかったエピソードを思い出しながら、枠内に正方形を描いてください。  なんだ、正方形を描けだと。エピソードを書けじゃくて、思い出すだけでいいのか。よくある心理検査みたいだな。こんなのなら、時間もかからないし暇つぶしにやってみるか。  ペンを手に取り、楽しかったエピソードを記憶の中から探し出す。  こうして改めて思い返してみると、そんなに楽しかった思い出ないな、俺。それでも、小さい頃、両親と行った遊園地を楽しかったな。ジェットコースターに乗って、ソフトクリーム食べて、芝生の上でお母さんが作ってくれたおにぎり食べて。うん、これが一番かな。  そう思いながら、ペンで正方形を描いていく。正確な正方形ではないけれど、まあ正方形に見えるレベルだろう。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!