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「はい、ありがとうございました。では、怒りの感情は確かに買い取らせて頂きました。また、不要な感情がありましたら、ぜひご用命ください」
「え、何もしていないけれど」
「まあ、そこは企業秘密で」
大した説明もなく、最後まで曖昧に応対されたが、それでもイラッとするようなことはなかった。
確かに、怒りという感情そのものが無くなったかのように心は落ち着いている。よくわからないまま、俺は俺の怒りの感情を売った代金三十万をバッグにしまい、買い取り屋を後にした。
◇◆◇◆
「お前、本当に人が変わったのように穏やかになったな」
「いや、まあ。本当に先日はすいませんでした」
「今のお前見てたら、再雇用してよかったって思ってるよ」
仕事を解雇され、怒りの感情を売却した次の日、俺は解雇された会社に出向き誠心誠意謝罪し、解雇を撤回してもらった。かなりの叱責を受けたが、平身低頭の姿勢を崩さず、一切反論しなかったことで誠意を認めてもらったらしい。これも、怒りの感情を売却した効果だろう。以前の俺なら、叱責を受けている途中でブチギレていたはずだ。
俺の人生にとって、どれだけ怒りの感情が邪魔をしていたのか、今は痛感している。あの日、感情を売ってよかった。感情一つで、自分自身も周りの自分に対する評価もこんなにも変わるのかと驚かされる。
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